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歯科コラム

歯周病治療における最新技術とアプローチ

歯周病は、歯を失う原因の第一位」。そんな言葉に、不安を感じている方も多いのではないでしょうか。歯ぐきからの出血や口臭、歯のぐらつき…。「もう手遅れかもしれない」と、歯科医院から足が遠のいてしまっている方もいるかもしれません。

私自身、長年この業界にいますが、歯周病がもたらす深刻な影響を数多く目の当たりにしてきました。しかし、声を大にして言いたいのです。歯周病治療は、この10年で劇的に進化している、と。

かつては「不治の病」とさえ言われた歯周病ですが、今やテクノロジーの進化が、その常識を覆そうとしています。痛みを最小限に抑え、失われた骨を再生させ、さらには治療そのものを「オーダーメイド」する時代が到来しているのです。

これは、一部の特別な人のための話ではありません。これから解説するのは、あなたの未来を左右するかもしれない、歯周病治療の新たな可能性です。私が現場で培ってきた知見を交えながら、最新の治療法から未来の展望まで、その全貌を分かりやすく解き明かしていきます。


目次

  1. 最新の治療機器とその効果
  2. レーザー治療の導入事例
  3. 抗菌治療の新たなアプローチ
  4. 再生医療を応用した治療法
  5. デジタル診断技術の進化
  6. 新薬による炎症抑制効果
  7. 個別化治療プランの作成方法
  8. ミニチュア手術のメリット
  9. 治療結果を左右する技術革新
  10. 未来の歯周病治療の展望

1. 最新の治療機器とその効果

歯周病治療の成否は、歯周ポケットの奥深くに潜む、病気の原因となる細菌(歯周病菌)をいかに徹底的に除去できるかにかかっています。しかし、従来の器具だけでは、複雑な歯の根の形態の隅々までアプローチするには限界がありました。

そんな中、治療の常識を覆す画期的な機器が登場し、注目を集めています。

その代表格が、2024年に承認された「ブルーラジカル(Blue Radical)P-01」と呼ばれる新しい治療機器です。 これは、東北大学発のベンチャー企業が17年もの歳月をかけて開発したもので、まさに歯周病治療に革命を起こす可能性を秘めています。

この機器の最大の特徴は、超音波による物理的な歯石除去と、特殊な光(青色レーザー)と薬剤(過酸化水素)を組み合わせた化学的な殺菌を、同時に行える点にあります。

  • 物理的除去:超音波の振動で、歯の表面にこびりついた歯石やバイオフィルム(細菌の塊)を効率的に破壊・除去します。
  • 化学的殺菌:青色レーザーと過酸化水素が化学反応を起こすことで、「ヒドロキシラジカル」という非常に強力な殺菌作用を持つ物質が生成されます。このヒドロキシラジカルが、歯周ポケットの奥深くにいる細菌を99.99%という驚異的なレベルで殺菌するのです。

私がこの技術に特に注目しているのは、その「非侵襲性」、つまり、歯ぐきを切らずに治療できる点です。 従来の重度の歯周病治療では、歯ぐきを切開して歯の根を露出させる外科手術(フラップ手術)が必要になるケースが多く、患者さんの身体的・精神的な負担が大きいという課題がありました。しかし、この新しい機器を使えば、メスを入れることなく、深い歯周ポケットの内部まで徹底的にクリーンにできる可能性があります。

実際に、治験では6〜9mmもあった深い歯周ポケットが、平均して5mm以下まで改善したというデータもあり、外科手術を回避できる可能性が大きく高まります。 もちろん、まだ導入されている歯科医院は限られており、長期的な効果に関するデータも蓄積中であるなど、今後の課題も残されています。 しかし、この「機械的除去と殺菌の同時実現」というアプローチは、間違いなく今後の歯周病治療のスタンダードを変えていくでしょう。

関連記事:予防歯科の基本と重要性|虫歯・歯周病予防から健康寿命を延ばす習慣まで解説

2. レーザー治療の導入事例

「歯医者の治療は痛い、怖い」。そんなイメージを払拭する技術として、近年急速に普及しているのがレーザー治療です。特に歯周病治療において、レーザーはもはや欠かせないツールの一つとなっています。

レーザー光には、殺菌、消炎、鎮痛、組織の治癒促進といった、多彩な効果が期待できるからです。

私が以前担当した、40代の男性患者さんのケースが非常に印象的でした。彼は長年の喫煙習慣があり、歯ぐきはゴツゴツと硬く腫れあがり、歯磨きのたびに出血するという典型的な歯周病の状態でした。 

ご本人も「もうこの歯はダメかもしれない」と半ば諦めている様子でした。

そこで、通常の歯石除去に加え、レーザー治療を併用するプランを提案しました。

具体的には、歯周ポケット内にレーザーを照射し、内部の細菌を直接殺菌すると同時に、炎症を起こした歯ぐきの治癒を促すのです。治療を数回繰り返すうちに、彼の口腔内には劇的な変化が現れました。

  • 歯ぐきの引き締まり:ブヨブヨと腫れていた歯ぐきが、レーザーの治癒促進効果によってキュッと引き締まり、健康的なピンク色を取り戻しました。
  • 出血と口臭の改善:治療のたびに悩まされていた出血がなくなり、気にされていた口臭も大幅に改善されました。
  • 歯周ポケットの減少:レーザー治療と徹底したプラークコントロールの結果、深かった歯周ポケットが正常値まで改善し、歯のぐらつきも収まりました。

最終的に、彼は一本の歯も失うことなく治療を終えることができ、「レーザー治療のおかげで、自分の歯で噛める喜びを取り戻せた」と、心からの笑顔を見せてくれました。

この事例のように、レーザーは様々な状態の歯周病に効果を発揮します。特に、炭酸ガスレーザー半導体レーザーなど、レーザーの種類によって特性が異なり、症状に応じて使い分けることで、より高い治療効果が期待できます。 例えば、半導体レーザーは組織への透過性が高く、歯ぐきの切開や止血、治癒促進に優れています。

レーザー治療の大きなメリットは、痛みが少なく、麻酔の使用量を減らせること、そして「キーン」という不快な音がしないことです。これにより、歯科治療に恐怖心のある方でも、リラックスして治療を受けやすくなります。まさに、患者さんの負担を軽減し、治療の質を高める、現代の歯周病治療に不可欠な技術と言えるでしょう。

3. 抗菌治療の新たなアプローチ

歯周病は、言うまでもなく細菌による感染症です。そのため、原因菌を叩く「抗菌治療」は、治療の根幹をなす重要なアプローチです。従来は、物理的な歯石除去に加え、抗菌薬(抗生物質)の内服などが主な方法でした。しかし、全身への影響や耐性菌(薬が効かない細菌)の出現といった懸念もありました。

そこで今、注目されているのが、より局所的で、体に優しく、かつ効果的な新しい抗菌アプローチです。その一つが、特定の薬剤とレーザーを組み合わせることで、殺菌効果を飛躍的に高めるという考え方です。

最近の研究では、特定の種類のレーザー(Er:YAGレーザー)と、クロルヘキシジンや過酸化水素、次亜塩素酸ナトリウムといった抗菌作用のある洗浄液を併用すると、歯周病菌の生存率が劇的に低下することが分かってきました。

 これは、レーザーのエネルギーが薬剤の効果を増強させ、相乗効果を生み出すためと考えられています。

また、より身近なセルフケアの領域でも、新しいアプローチが生まれています。例えば、プロポリスのような天然由来成分の抗菌・抗炎症作用に着目した歯磨き粉やマウスウォッシュが登場しています。 

日々のケアにこうした製品を取り入れることで、口内環境を健やかに保ち、歯周病の予防や治療の補助としての効果が期待されています。

さらに、市販のマウスウォッシュにも、専門的な成分が配合されるようになってきました。

  • CPC(塩化セチルピリジニウム):強力な殺菌作用で、歯周病の原因菌を減らします。
  • トラネキサム酸:歯ぐきの炎症や出血を抑える効果があります。

これらの成分が含まれた製品を日常的に使用することは、歯科医院での専門的な治療効果を維持し、再発を防ぐ上で非常に重要です。私がいつも患者さんにお伝えするのは、「治療は歯科医院と患者さんの二人三脚です」ということです。歯科医院でプロフェッショナルケアを受け、ご自宅では最新の知見に基づいたセルフケアを実践する。この両輪が揃って初めて、歯周病という手強い敵に打ち勝つことができるのです。

4. 再生医療を応用した治療法

歯周病の最も恐ろしい点は、一度溶けてしまった歯を支える骨(歯槽骨)は、自然には元に戻らない、という事実にありました。骨を失えば、歯は支えをなくして抜け落ちてしまいます。

しかし、その常識を覆したのが「歯周組織再生療法」です。これは、失われた骨や歯根膜といった歯周組織を、特殊な材料を使って再生させる、まさに再生医療を応用した画期的な治療法です。

この治療法は、特に「垂直性骨欠損」と呼ばれる、歯に沿って縦方向に深く骨が溶けてしまったケースで、絶大な効果を発揮します。

 私が経験したある患者さんは、奥歯の一部分だけ骨の吸収が著しく、従来の治療では抜歯以外に選択肢がない、とまで言われた方でした。レントゲン写真を見ると、歯の根の周りに深い影が映っており、まさに崖のように骨がえぐれている状態でした。

その患者さんに対し、私は歯周組織再生療法の一つである「GTR法」を提案しました。これは、以下のようなステップで行う治療です。

  1. 徹底的な清掃:まず、歯ぐきを部分的に切開し、歯の根に付着した歯石や感染組織を徹底的に取り除きます。
  2. メンブレンの設置:次に、「メンブレン」と呼ばれる特殊な人工膜を、骨が失われた部分に設置します。この膜が、骨が再生するためのスペースを確保し、歯ぐきなどの不要な組織が入り込むのを防ぐ「バリア」の役割を果たします。
  3. 再生の誘導:メンブレンによって守られた空間で、骨を作る細胞が活発に働き、数ヶ月かけてゆっくりと新しい骨が再生されていきます。

手術から半年後、再びレントゲンを撮影したところ、以前は黒い影だった部分に、白く新しい骨が再生されているのがはっきりと確認できました。

ぐらついていた歯は、まるで新しい土台に根を張ったかのように安定し、患者さんは「自分の歯がもう一度生まれ変わったようだ」と、大変喜んでいました。

この他にも、骨の再生を促すタンパク質(成長因子)を利用する方法など、様々な再生療法が開発されています。 もちろん、全てのケースに適応できるわけではなく、患者さんのお口の状態や全身の健康状態などを考慮して、慎重に判断する必要があります。

 しかし、かつては抜くしかなかった歯を救い、もう一度自分の歯で噛む機能を取り戻せるこの技術は、多くの患者さんにとって大きな希望の光となっています。

関連記事はこちら:矯正治療の費用と支払い方法を徹底解説

5. デジタル診断技術の進化

優れた治療は、正確な診断なくしては成り立ちません。歯周病治療においても、テクノロジーの進化は「診断」の世界に大きな変革をもたらしています。

かつては歯科医師の経験や勘に頼る部分も大きかった診断が、デジタル技術の力で、より客観的で精密なものへと進化しているのです。

その中心にあるのが、歯科用CTです。従来のレントゲン写真は二次元的な平面画像でしたが、歯科用CTは、顎の骨の構造を三次元的に、あらゆる角度から詳細に把握することができます。これにより、歯周病によって骨がどのように、どれくらい失われているのかを、ミリ単位で正確に診断することが可能になりました。

私が再生療法などの外科処置を行う際には、術前に必ずCT撮影を行います。CT画像を見ることで、骨の厚みや幅、重要な神経や血管の位置までを立体的にシミュレーションできるため、手術の安全性が飛躍的に向上しました。

まるで、事前に詳細な地図を手に入れてから、目的地に向かうようなものです。

さらに、口腔内スキャナーの登場も、診断の精度を大きく変えました。これは、ペン型のカメラでお口の中をなぞるだけで、歯や歯ぐきの状態を精密な3Dデジタルデータとして取り込める装置です。このデータを使えば、

  • 歯ぐきの厚みや形態の変化
  • 歯の摩耗やかみ合わせの状態
  • 治療前後の変化の比較

などを、客観的な数値や色分けされた画像で、患者さん自身にも視覚的に分かりやすく説明することができます。

「なんとなく歯ぐきが腫れていますね」という曖.昧な説明ではなく、「この部分の歯ぐきが、前回の検査時より0.5mm後退しています」と具体的なデータで示すことで、患者さんの治療への理解とモチベーションは格段に高まります。

これらのデジタルデータを統合し、AI(人工知能)が診断を補助するようなシステムの開発も進んでいます。

レントゲン画像から、人間の目では見逃しがちな初期の骨吸収のサインをAIが検出するといった研究も行われており、将来的には、より早期に、より正確に歯周病を発見できる時代が来るでしょう。

デジタル技術は、見えない病気を見える化し、治療をより科学的で確実なものへと導いてくれる、強力な羅針盤なのです。

6. 新薬による炎症抑制効果

歯周病治療の基本は、原因であるプラークや歯石を取り除くことですが、それと同時に、すでに起きてしまっている歯ぐきの「炎症」をいかにコントロールするかも非常に重要です。

炎症が続けば、歯ぐきの腫れや出血が収まらないだけでなく、骨の破壊も進行してしまいます。

この炎症を抑えるために、新たな医薬品の開発も進んでいます。特に、塗り薬(外用薬)の進化は目覚ましく、より患部に長くとどまり、効果的に作用する工夫が凝らされています。

例えば、唾液に触れるとゲルの粘性が高まり、歯ぐきにピッタリと密着して流れ落ちにくい「滞留処方」の塗り薬があります。 このタイプの薬は、有効成分が弱った歯ぐきに長時間とどまり、じっくりと浸透していくため、高い抗炎症効果や組織修復効果が期待できます。

市販薬でも、様々な有効成分を配合した製品が手に入ります。

  • 痛み止め成分(局所麻酔成分):歯ぐきのつらい痛みを直接和らげます。
  • 殺菌成分:口内の細菌を殺菌し、炎症の悪化を防ぎます。
  • 生薬成分:体の内側から働きかけ、歯ぐきの腫れや出血を抑える漢方薬などもあります。

私が患者さんによくお勧めするのは、歯科医院での専門的な治療と並行して、こうした市販薬を補助的に活用することです。例えば、歯石除去の後に一時的に歯ぐきがジンジンと痛む場合や、日々の歯磨きで出血しやすい部分に、症状に合った塗り薬を使ってもらうのです。これにより、不快な症状が緩和され、患者さんはより快適に治療期間を過ごすことができます。

もちろん、これらの薬は根本的な原因を取り除くものではないため、薬だけに頼るのは禁物です。しかし、専門的な治療と組み合わせることで、つらい炎症症状を効果的にコントロールし、治療全体の成功率を高めるための強力なサポート役となってくれることは間違いありません。

参考ページ:虫歯が原因で健康を損なうリスクとは?

7. 個別化治療プランの作成方法

歯周病は、一人ひとり症状の現れ方や進行度が全く異なります。まるで、顔や性格が人それぞれ違うのと同じです。

生活習慣、全身の健康状態、遺伝的な要因、かみ合わせの癖など、無数の要素が複雑に絡み合って、その人の「歯周病」という状態を作り上げています。

だからこそ、現代の歯周病治療では、画一的な治療ではなく、患者さん一人ひとりの状態に合わせた「個別化治療プラン(オーダーメイド治療)」を作成することが、何よりも重要視されています。

私が新しい患者さんの治療計画を立てる際には、まるで探偵のように、あらゆる情報を収集することから始めます。

  1. 精密な検査とデータ収集
    • 歯周ポケット検査:歯と歯ぐきの間の溝の深さを、全ての歯で1本ずつ丁寧に測定します。
    • レントゲン・CT撮影:目に見えない骨の状態を、二次元および三次元で詳細に分析します。
    • 口腔内写真:歯ぐきの色や形、歯の汚れの付き具合などを記録します。
    • 生活習慣のヒアリング:喫煙の有無、食生活、ブラッシングの癖、ストレスの状況などを詳しくお伺いします。
    • 全身疾患の確認:特に糖尿病などは、歯周病と密接な関係があるため、現在の健康状態を正確に把握します。
  2. リスクの分析と目標設定
    集めた情報を元に、「なぜこの患者さんは歯周病になったのか」「どの歯が最も危険な状態か」「将来的にどんなリスクが考えられるか」を総合的に分析します。そして、患者さんと一緒に、「最終的にどんな状態を目指したいか」というゴールを共有します。例えば、「まずは出血を止めたい」「奥歯でしっかり噛めるようになりたい」「将来一本も歯を失いたくない」など、目標は人それぞれです。
  3. 治療プランの立案と提示
    分析結果と目標に基づき、具体的な治療のステップを組み立てます。どの治療法(レーザー、再生療法など)を選択するのか、治療にどれくらいの期間と費用がかかるのか、そして最も大切な「なぜその治療が必要なのか」を、写真やデータをお見せしながら、患者さんが完全に納得できるまで丁寧に説明します。

このプロセスを経ることで、治療は単に歯科医師が一方的に進めるものではなく、患者さん自身が主体的に参加するプロジェクトへと変わります。自分の口の中の状態を正しく理解し、治療の必要性を心から納得していただくこと。それこそが、長い治療期間を乗り越え、その後の健康な状態を維持していくための、最も重要な鍵となるのです。

参考:親知らずの抜歯後に後悔しないためのポイント

8. ミニチュア手術のメリット

重度に進行した歯周病に対して、歯ぐきを切開して歯の根をきれいに掃除する「フラップ手術」は、非常に有効な治療法です。しかし、「手術」と聞くと、どうしても「痛そう」「腫れそう」といったネガティブなイメージが先行しがちです。

そんな外科治療の常識を変えつつあるのが、マイクロスコープ(歯科用顕微鏡)を用いた、極めて精密な「ミニチュア手術(マイクロサージェリー)」です。

マイクロスコープを使うと、患部を肉眼の数倍から20倍以上にまで拡大して見ることができます。これは、歯科医師が米粒に文字を書くような、ミクロの世界で手術を行うことを可能にします。

このミニチュア手術がもたらすメリットは、計り知れません。

  • 最小限の切開:術野が拡大されるため、歯ぐきの切開を必要最小限に抑えることができます。切開範囲が小さいということは、術後の痛みや腫れ、出血を大幅に軽減できることを意味します。 私の経験上、従来の手術に比べて、患者さんの身体的な負担は半分以下に感じられます。
  • 感染組織の徹底的な除去:肉眼では見えないレベルの微細な歯石や、細菌に汚染された組織までを、マイクロスコープ下で確実に取り除くことができます。 この「取り残しをなくす」という徹底した処置が、再発のリスクを大きく下げ、治療の成功率を飛躍的に高めます。
  • 精密な縫合:髪の毛よりも細い、極細の糸を使って、切開した歯ぐきを寸分の狂いなく縫合することができます。傷口が精密に閉じられるため、治りも非常に速く、傷跡もきれいです。
  • 治療期間の短縮:術後の回復が早いため、結果的に全体の治療期間も短縮される傾向にあります。

先ほどご紹介した「ブルーラジカル」のような非侵襲的な治療も進化していますが、どうしても外科的なアプローチが必要なケースは存在します。 そうした場合でも、このミニチュア手術を選択することで、患者さんは「手術でありながら、体に優しい」という、新しいレベルの治療を受けることができるのです。

これはもはや、従来の手術とは全く別次元の、精密で低侵襲な治療法と言えるでしょう。

9. 治療結果を左右する技術革新

ここまで様々な最新技術をご紹介してきましたが、これらの技術革新がもたらした最も大きな変化は、「歯周病治療における痛みの軽減と患者さんの負担の削減」に集約されると言っても過言ではありません。

かつての歯周病治療は、歯石を取る際の「ガリガリ」という機械的な刺激や、超音波スケーラーの振動による痛みが伴うものでした。 特に、歯ぐきが炎症を起こして敏感になっている状態では、その痛みはより強く感じられます。

 この「痛み」や「不快感」こそが、多くの人々を歯周病治療から遠ざけ、結果的に症状を悪化させてしまう最大の原因だったのです。

しかし、技術革新がその壁を打ち破りました。

  • 痛みの少ない機器の登場:振動が少なく、先端のチップがより滑らかに進化した超音波スケーラーや、前述したブルーラジカルのような、物理的な刺激を最小限に抑えながら殺菌できる機器が登場しました。
  • レーザー治療の普及:レーザーによる殺菌や治癒促進は、麻酔なしでも行えるほど痛みが少ないのが特徴です。
  • 低侵襲な手術:マイクロスコープを用いたミニチュア手術は、術後の痛みや腫れを劇的に軽減しました。

これらの技術によって、「歯周病治療=痛い」という常識は過去のものとなりつつあります。治療が快適になることで、患者さんは途中で挫折することなく、最後まで治療をやり遂げることができます。そして、治療後も定期的なメンテナンスに前向きに通えるようになります。

さらに、技術革新は全身の健康にも良い影響を与えることが分かってきています。ある研究では、年に1回以上の歯周病治療(メンテナンス)を受けることで、糖尿病の重篤な合併症である透析への移行リスクが32%も減少するという結果が報告されています。 これは、歯周病治療が単にお口の中の問題を解決するだけでなく、全身の健康を守る上で極めて重要であることを科学的に証明しています。

技術の進歩が治療の質を高め、患者さんの負担を減らし、さらには全身の健康寿命を延ばす。これこそが、現代の歯周病治療が目指す姿なのです。

10. 未来の歯周病治療の展望

歯周病治療の進化は、まだまだ止まりません。今、研究レベルで進められている最先端のアプローチが、数年後には私たちの身近な治療になっている可能性があります。

私が特に期待している未来の治療法は、「バクテリアセラピー」という考え方です。これは、悪玉菌である歯周病菌を薬で叩くだけでなく、体に良い影響を与える善玉菌(プロバイオティクス)を口の中に定着させることで、口内フローラ(細菌叢)全体のバランスを整え、歯周病になりにくい環境を根本から作り上げようというアプローチです。

悪玉菌を減らし、善玉菌を増やす。まるで、腸内環境を整える「腸活」の口腔版のようなイメージです。

また、遺伝子レベルでのリスク診断も現実のものとなるでしょう。遺伝子を調べることで、その人が生まれつき歯周病になりやすいタイプなのか、どんな種類の細菌に感染しやすいのかが事前に分かれば、発症する前から、その人に合わせた究極の予防プログラムを組むことが可能になります。

さらに、AI(人工知能)の活用は、診断から治療計画の立案まで、あらゆる場面で歯科医師をサポートしてくれるはずです。膨大な臨床データや論文を学習したAIが、患者さん一人ひとりの検査データに基づき、「この患者さんにとって、成功率が最も高い治療法はこれです」と、最適な治療プランを複数提案してくれる。

歯科医師は、その提案を元に、患者さんと相談しながら最終的な方針を決める。そんな、AIとの協業が当たり前の時代が来るかもしれません。

参考:親知らずの抜歯後に後悔しないためのポイント

「失う」時代から「守り育てる」時代へ

歯周病治療の最前線をご案内してきましたが、その進化の目覚ましさを感じていただけたでしょうか。最新機器による低侵襲な治療、失った骨を取り戻す再生医療、そして一人ひとりに寄り添う個別化治療。これからの歯周病治療は、もはや単に病気の進行を「食い止める」だけではありません。

失いかけた歯と歯ぐきの健康を積極的に「取り戻し」、そして生涯にわたって「守り育てる」という、新しいステージへと突入しています。

もしあなたが、歯ぐきからのサインに気づきながらも、一歩を踏み出せずにいるのなら、ぜひ思い出してください。今日の歯科医療には、あなたの不安を解消し、希望を叶えるための、数多くの選択肢が用意されています。

大切なのは、諦めずに専門家の扉を叩くことです。

最新のテクノロジーと、それに裏打ちされた的確な診断、そして何よりも患者さんに寄り添う心。この三つが揃った時、歯周病はもはや「歯を失う病」ではなく、「克服できる病」へと変わります。あなたの歯の未来は、あなたのこれからの行動にかかっているのです。

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