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丘の上歯科醫院

院長:内藤 洋平

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歯科コラム

定期検診で「異常なし」と言われたのに歯が痛む…考えられる原因とは

  • 虫歯

「定期検診、お疲れ様でした。特に異常はありませんね」。歯科医師からそう告げられ、ホッと胸をなでおろしたのも束の間、数日後、またあの歯がズキッと痛む…。そんな経験はありませんか?

「異常なし」と言われた手前、また歯医者さんに行くのも気が引けるし、「もしかして、自分の気のせいなのだろうか?」と、一人で不安を抱え込んでしまっている方も少なくないはずです。

私自身、歯科医療に携わる者として、こうした「診断と症状のミスマッチ」に悩む患者さんのお話を、これまで数えきれないほど伺ってきました。

しかし、声を大にしてお伝えしたいのです。あなたが感じているその「痛み」は、決して気のせいなどではありません。それは、あなたの体から発せられている、紛れもない重要なサインです。

実は、「異常なし」という言葉の裏には、通常の検診の範囲では捉えきれない、様々な「隠れた原因」が潜んでいる可能性があるのです。

これから、なぜレントゲンにも写らない痛みが存在するのか、その考えられる原因から、あなたが次に取るべき具体的な行動まで、プロの視点から、その謎を一つひとつ、丁寧に解き明かしていきます。


目次

  1. レントゲンに写らない虫歯の可能性
  2. 知覚過敏が引き起こす痛み
  3. 歯にひびが入っている(マイクロクラック)
  4. 歯周病が静かに進行しているサイン
  5. 食いしばりや歯ぎしりによるダメージ
  6. 定期検診のチェック項目には限界がある?
  7. セカンドオピニオンを考えるべきケース
  8. 痛みの原因を特定するための精密検査
  9. 定期検診と併せて伝えたい自覚症状
  10. 信頼できる歯科医師とのコミュニケーション

1. レントゲンに写らない虫歯の可能性

「虫歯は、レントゲンを撮れば必ず分かるはず」。多くの方がそう信じているかもしれませんが、実は、レントゲン検査は万能ではありません。これは非常に重要なポイントです。レントゲン写真は、三次元の複雑な構造物である歯を、強引に二次元の影絵として写し出しているに過ぎません。そのため、特定の条件下では、現に進行中の虫歯でさえも、その姿を巧妙に隠してしまうことがあるのです。

  • ごく初期の虫歯(初期う蝕) 歯の表面を覆うエナメル質が、酸によってミネラル成分が溶け出し始めた(脱灰した)ばかりの、まだ物理的に「穴」になっていない状態です。この段階では、歯の表面は白く濁ったり、わずかに茶色っぽくなったりしますが、レントゲン写真上では、健康なエナメル質との密度の差がほとんどないため、変化として写らないことがよくあります。しかし、歯の表面は目に見えないレベルで多孔質(穴だらけ)になっており、これが刺激となって冷たいものなどがしみる原因となることがあります。
  • 詰め物や被せ物の下に潜む虫歯(二次う蝕) これが、臨床現場で最も見逃されやすく、また診断が難しいケースの一つです。過去に治療した金属の詰め物(インレー)や、セラミックの被せ物(クラウン)の、ほんのわずかな隙間から虫歯菌が侵入し、その下で静かに虫歯が再発していることがあります。 金属やセラミックは、レントゲンのX線をほとんど通さないため、レントゲン写真上では真っ白な影として写ります。その下に隠れた虫歯は、まるでステルス戦闘機のように、レントゲン写真には写らないのです。 私が以前担当した患者さんで、何ヶ月も原因不明の鈍い痛みに悩んでいた方がいました。レントゲンは何度撮ってもクリア(異常なし)でした。しかし、痛みの性質から二次う蝕を強く疑い、ご本人と相談の上で古い金属の詰め物を外してみたところ、その下には、神経の近くまで達する大きな黒い虫歯が広がっていました。患者さんは驚かれていましたが、同時に「やっぱり気のせいじゃなかった」と安堵されていたのが印象的です。
  • 噛み合わせの面の虫歯 奥歯の噛む面(咬合面)には、食べ物をすり潰すための、複雑で深い溝があります。この溝の奥深くで発生した虫歯は、レントゲン写真では歯の厚み(エナメル質や象牙質)と重なってしまい、特に初期の段階では、その存在を判別するのが非常に困難です。レントゲンの角度によっては、ある程度進行していても見えないことすらあります。

このように、レントゲンという「ふるい」をすり抜けてしまう虫歯は、決して珍しくありません。 もちろん、歯科医師は視診(目で見る)や探針(先の尖った器具)によるチェックも行いますが、最終的には、レーザー光の反射を利用した虫歯診断器(ダイアグノデントなど)や、三次元的に内部構造を確認できる「歯科用CT」といった、より精密な検査によってはじめて、その正体が明らかになることもあるのです。

関連記事:虫歯の痛みはこうして防ぐ!正しい対処法と予防習慣のすべて

2. 知覚過敏が引き起こす痛み

「冷たい水を飲むと、キーンと電気が走るように痛む」「歯ブラシの毛先が当たっただけで、ズキッとする」。もし、あなたの痛みが、このように特定の刺激によって引き起こされる、一過性(刺激がなくなればすぐに消える)の鋭い痛みであるなら、それは「知覚過敏」の可能性が非常に高いと言えます。

知覚過敏は、虫歯のように歯に穴が開いているわけでも、歯の根の先に膿が溜まっているわけでもありません。そのため、レントゲンにはもちろん、何の異常も写りません。その痛みのメカニズムは、歯が本来持っている構造に隠されています。

歯の表面は、人体で最も硬い組織である「エナメル質」で覆われています。しかし、その内側には「象牙質」という、比較的柔らかい層があります。この象牙質には、「象牙細管(ぞうげさいかん)」と呼ばれる、無数の小さな(髪の毛よりずっと細い)管が、歯の中心にある神経(歯髄)に向かって放射状に通っています。 健康な状態では、この象牙質はエナメル質や歯茎によって、外部の刺激から完全に守られています。

しかし、何らかの原因でエナメル質が削れたり、歯茎が下がって本来は覆われているはずの歯の根元(象牙質がむき出しの部分)が露出してしまったりすると、この無防備な管の入り口が、外部からの刺激に直接さらされることになります。

主な原因としては、以下のようなものが挙げられます。

  • 強すぎるブラッシング(過度な圧):ゴシゴシと力を入れすぎた歯磨きは、エナメル質を摩耗させ、歯茎を傷つけます。
  • 歯周病や加齢による歯茎痩せ:歯茎が下がる(歯肉退縮)と、本来隠れていた象牙質が露出します。
  • 歯ぎしりや食いしばりによる歯の摩耗:過剰な力がかかると、歯の根元がくさび状に削れる(くさび状欠損)ことがあります。
  • 酸の強い飲食物の過剰摂取(酸蝕症):お酢や柑橘類、炭酸飲料などを習慣的に摂ることで、エナメル質が溶けてしまうことがあります。

こうした原因によって象牙質が露出すると、冷たいものや熱いもの、歯ブラシの接触、風といった刺激が、管の中の液体を通じて、一瞬で歯の神経に伝達されてしまうのです。これが、知覚過敏の痛みの正体です。 定期検診では、「虫歯や歯周病といった“病的な”異常はない」と判断されても、こうした“生理的な”痛みの原因が潜んでいることは、非常によくあるケースなのです。

3. 歯にひびが入っている(マイクロクラック)

「噛むと痛い。でも、どこの歯が痛いのか、はっきりしない」「何もしなければ痛くないのに、食事の時だけ、時々ピリッと痛む」「温かいものがしみるようになってきた」。 もし、あなたの痛みに、このような神出鬼没で、捉えどころのない特徴があるなら、歯に目に見えない「ひび(マイクロクラック)」が入っている可能性を疑う必要があります。

これは、歯科医師にとっても診断が非常に難しい、厄介な症状の一つです。なぜなら、このひびは、文字通り、ティーカップの表面に入った、ごくごく微細な「ひび(貫入)」のようなもので、通常のレントゲン検査では、まず100%写し出すことができないからです。

  • 痛みの特徴 マイクロクラックによる痛みの最大の特徴は、「噛んだ時(力を入れた時)」よりも、むしろ「噛むのをやめて、力を抜いた瞬間」に、鋭い痛み(Release Pain)を感じることが多い点です。これは、噛む力でわずかに開いたひびが、力を抜くことで元に戻ろうとする際に、ひびの内部で液体が動き、歯の内部の神経を刺激するためと考えられています。ひびが神経にまで達していなくても、この圧力の変化だけで痛みは生じます。
  • 原因
    • 歯ぎしりや食いしばり(ブラキシズム):これが最大の原因です。あなたの体重以上の力が、毎晩のように、あるいは日中集中している時に、特定の歯に加わり続けることで、金属疲労のように、歯に微細な亀裂が生じます。
    • 硬いものを噛む癖:氷や木の実、飴などをガリガリと噛む習慣がある方は、歯に瞬間的に強い衝撃が加わるため、リスクが高まります。
    • 過去の治療:特に、大きな金属の詰め物(アンレーなど)が入っている歯は、要注意です。金属と歯質では、温かいものや冷たいものに対する熱膨張率が異なります。これを長年繰り返すことで、境界面に力が集中し、歯の側にひびが入りやすい傾向があります。

この見えないひびを探し出すためには、特定の歯でコットンロールや専用の器具などを噛んでもらう「咬合痛検査」や、強い光を歯に透過させてひびの線(亀裂線)を見つけ出す「光透過診」を行います。そして最終的には、肉眼の何十倍もの視野で観察できる「マイクロスコープ(歯科用顕微鏡)」の使用が不可欠となります。 私が経験したケースでも、数ヶ月にわたり原因不明の痛みを訴える患者さんをマイクロスコープで観察したところ、詰め物の下に、髪の毛ほどの細さの亀裂が、歯の根に向かって走っているのを発見できたことが、一度や二度ではありません。この診断がつくまで、患者さんは「気のせいでは」と悩み続けていたのです。

4. 歯周病が静かに進行しているサイン

「歯の痛み」というと、多くの人はまず虫歯を連想しますが、実は歯周病も、独特の痛みを引き起こすことがあります。そして、それは必ずしも「歯茎が腫れて痛い」という分かりやすい症状として感じられるとは限りません。

歯周病は、歯と歯茎の隙間(歯周ポケット)から侵入した細菌によって、歯を支えている顎の骨が徐々に溶けていく病気です。 これが進行すると、歯は、頑丈な地盤ではなく、少しぬかるんだ地面に立っている杭のような状態になります。この不安定な状態で、食事の時などに噛む力が加わると、健康な歯ではありえないほど、歯がミクロのレベルで沈み込んだり、揺さぶられたりします。 この過剰な動きや圧力が、歯の根の周りにある歯根膜(しこんまく)というクッション役の組織に炎症を起こし、それが「歯が浮いたような、鈍い痛み」や「噛むと響くような痛み」「特定の歯だけが重苦しい」といった症状として感じられるのです。

では、なぜこれが定期検診で「異常なし」とされてしまうことがあるのでしょうか。

  • 初期から中等度の歯周病 レントゲン上での骨の吸収(骨が溶けた量)がまだ軽度であったり、全体的にじわじわと水平的に骨が下がっていたりする場合、急激な変化として捉えられず、「年齢相応の変化の範囲内」として、特に指摘されないことがあります。
  • 検査の省略 本来、歯周病の進行度を正確に診断するには、「歯周ポケット検査」といって、歯と歯茎の間の溝の深さを、全ての歯で一本ずつ(通常は1本の歯につき4~6箇所)丁寧に測定する必要があります。 しかし、時間的な制約のある定期検診では、この非常に手間のかかる精密な検査が省略され、明らかな歯石の付着や歯茎の腫れ(視診)がなければ、「特に大きな異常はなし」と判断されてしまうケースも、残念ながら存在します。

つまり、虫歯のような明確な「穴」はないけれど、歯を支える土台が、水面下で静かに弱り始めている。その土台からの悲鳴が、「歯の痛み」として現れている可能性があるのです。特に、以前と比べて歯に物が詰まりやすくなった、歯茎がむず痒いといった症状が伴う場合は、要注意です。

関連記事はこちら:子どもの予防歯科と早期ケア

5. 食いしばりや歯ぎしりによるダメージ

これまでに挙げた「知覚過敏」や「マイクロクラック」の、根本的な元凶となっていることが多いのが、この「食いしばり」や「歯ぎしり」(ブラキシズム)です。しかし、ブラキシズムは、それ自体が独立した痛みの原因にもなります。

私たちは、睡眠中や、日中、何かに集中している時(PC作業、運転、家事など)、無意識のうちに、上下の歯を、グーッとかみしめたり、ギリギリとこすり合わせたりしているかもしれません。 この時、歯にかかる力は、食事の時(数kg~10kg程度)とは比較にならないほど大きく、時には自分の体重以上(50kg~100kg)の力が、持続的に加わるとされています。この、本来の生理的な機能(食事や会話)ではありえない、過剰で破壊的な力が、歯やその周囲の組織に、深刻なダメージを与えます。

  • 歯根膜炎(しこんまくえん) 歯と顎の骨の間には、「歯根膜」という、厚さ0.2~0.3mmほどの薄い膜状の組織があります。これは、噛んだ時の力を吸収・分散するクッションの役割を果たす、非常に重要な組織です。 ここに、ブラキシズムによる過剰な力がかかり続けると、歯根膜はまるで「捻挫」を起こしたような炎症状態(歯根膜炎)になります。これが、特定の歯、あるいは歯列全体の「浮いたような、鈍い痛み」や「噛むと痛い」「触ると響く」といった症状を引き起こします。歯自体に問題がなくても、歯の周りのクッションが悲鳴を上げている状態です。
  • 筋肉の痛み(関連痛) 歯ぎしりによって、顎を動かす筋肉(特に頬にある咬筋や、こめかみにある側頭筋)が常に緊張状態になるため、筋肉痛が起こります。これは、激しい筋トレの後に腕や足が痛むのと同じです。 この筋肉の痛みを、脳が「歯の痛み」と勘違いしてしまうことがあります(関連痛)。「奥歯が痛い」と思っていても、実はそのすぐ外側にある咬筋が痛んでいるだけ、というケースは非常に多いのです。朝起きた時に、顎がだるい、こめかみが痛い、口が開きにくいといった症状がある場合は、この可能性が高いと言えます。

ブラキシズムは、レントゲンにはもちろん写りません。歯科医師が、歯のすり減り具合(咬耗)や、頬の粘膜に見られる白い線(圧痕)、舌の縁がギザギザになっている(歯痕)といった、間接的なサインを見つけ出し、患者さんの自覚症状と照らし合わせることで、初めて診断できるものです。「特に悪いところはないんだけど、なんだかいつも歯が重苦しい感じがする」という方は、この見えない「力」の問題を、一度疑ってみる必要があります。

6. 定期検診のチェック項目には限界がある?

ここで、多くの方が根本的な疑問に思うでしょう。「では、なぜ定期検診で、これらの複雑な原因を見つけてくれないのか?」と。 それは、決して担当の歯科医師が怠慢である、あるいは能力が低い、というわけでは必ずしもありません。むしろ、日本の保険診療における一般的な「定期検診」というシステムの、構造的な限界が深く関係しています。

一般的な保険診療における定期検診は、その主な目的が「スクリーニング(ふるい分け)」としての役割にあります。限られた時間(通常は30分~1時間程度、クリーニングの時間も含めて)の中で、

  • 目視で確認できる明らかな虫歯や歯茎の腫れはないか
  • レントゲン写真(多くは、歯と歯の間の虫歯を見るための数枚のバイトウィング写真や、全体を大まかに見るパノラマ写真)に、分かりやすい異常な影はないか
  • 歯の表面のクリーニング(歯石除去や研磨) といった、最も頻度が高く、緊急性のあるトラブルを、効率的にチェックすることを目的としています。

逆に言えば、このスクリーニングの範囲に含まれていない、あるいは、患者さんからの「ここが痛い」という具体的な訴えがない限り、

  • 全ての歯に対する、精密な歯周ポケット検査(全歯6点法)
  • マイクロスコープ(歯科用顕微鏡)を使った、微細な亀裂の探索
  • 歯科用CTによる、三次元的な画像診断
  • 咬合(かみ合わせ)の精密な分析や、歯ぎしりの診断 といった、より専門的で、時間とコストのかかる「精密検査」は、通常は行われません。保険診療の枠組みでは、これらの検査を「念のため」に行うことが難しいという現実もあります。

つまり、歯科医師からの「異常なし」という言葉は、正確には「今回の検診の範囲内では、緊急性の高い、明らかな病的所見は見つかりませんでした」という意味なのです。 あなたが感じている「痛み」は、そのスクリーニングの網の目をすり抜けてしまった、より深く、より繊細な原因が隠れていることを示唆しています。その痛みのサインこそが、「スクリーニングの次のステップ(精密検査)に進むべきですよ」と、あなたに教えてくれているのです。

参考ページ:小児歯科で初めての診察、準備すべきこととは?

7. セカンドオピニオンを考えるべきケース

「異常なし」と言われたにも関わらず、痛みが続く。そして、そのことを主治医に勇気を出して訴えても、「気のせいでしょう」「神経質なだけですよ」「もう少し様子を見ましょう」と、真剣に取り合ってもらえない…。

もし、あなたがそのような状況に置かれているとしたら、それは「セカンドオピニオン」を真剣に考えるべき、重要なタイミングかもしれません。 セカンドオピニオンとは、現在の主治医以外の医師に、診断や治療方針についての意見を求めることです。これは、主治医を裏切る行為などでは決してなく、あなたが自分自身の健康に対して、主体的に、そして責任を持つための、非常に賢明で、認められた権利です。

特に、以下のようなケースでは、別の専門家の意見を聞く価値が非常に高いと言えます。

  • 痛みの訴えに対して、具体的な精密検査の提案がなく、「様子見」が続いている場合 「様子を見ましょう」という言葉は、時には必要な経過観察ですが、痛みが継続しているにも関わらず、原因究明の次の一手(CTやマイクロスコープなど)が打たれない場合は、診断が手詰まりになっている可能性があります。
  • あなたの「痛い」という感覚を、「気のせい」「ストレス」といった言葉で片付けられてしまう場合 もちろんストレスが痛みを増幅することはありますが、感覚を否定されてしまっては、信頼関係は築けません。
  • 原因が特定できないまま、「とりあえず神経を抜きましょう」「抜歯しましょう」といった、不可逆的(元に戻せない)な治療を提案された場合 神経を抜く(抜髄)や抜歯は、最後の手段です。原因が曖昧なまま、元に戻せない治療に進むのは、非常に高いリスクを伴います。
  • あなた自身が、現在の説明に、どうしても心から納得できていない場合 この「もやもや感」は、非常に重要なサインです。

重要なのは、診断がつかないこと自体が、必ずしも悪いわけではないということです。歯科医療には、原因特定が非常に困難なケースも確かに存在します。問題なのは、その「分からない」という状況に対して、次の一手を打とうとせず、患者さんの切実な訴えを軽視してしまう姿勢です。

別の歯科医院、特に、歯内療法(根管治療)や歯周病、あるいは顎関節症などの専門医や、マイクロスコープや歯科用CTといった高度な検査設備を備えた医院に相談することで、これまで見えなかった原因が、あっさりと見つかることも決して珍しくありません。

参考:小児歯科で虫歯治療!子供の痛みを軽減する治療方法とは?

8. 痛みの原因を特定するための精密検査

では、原因不明の痛みの謎を解き明かすために、歯科医院では具体的にどのような「精密検査」が行われるのでしょうか。これらの検査は、通常の検診では行われない、いわば「特別捜査」であり、多くの場合、保険適用外(自費診療)となることもありますが、真実を知るためには非常に強力な手段です。

  • 歯科用CT(コーンビームCT) これは、原因不明の痛みを診断する上で、現在最も強力な武器の一つです。従来の二次元レントゲンでは、歯や骨が重なり合って「影絵」としてしか見えませんでした。 しかし、歯科用CTは、対象を三次元の立体画像として、あらゆる角度から(輪切りにしたり、透視したり)詳細に観察することができます。これにより、二次元レントゲンでは絶対に分からなかった、歯の根の破折(ひび)、複雑な根管の形態、骨の中の微細な病変(膿の袋)、上顎洞(副鼻腔)との位置関係などを、驚くほど鮮明に映し出してくれます。
  • マイクロスコープ(歯科用顕微鏡) 肉眼の最大20倍以上もの拡大視野で、歯を直接観察できる装置です。歯科医師が、まるでSF映画のように、顕微鏡を覗き込みながら治療を行います。 これにより、これまで「見えない」ことが前提だった、マイクロクラック(微細な亀裂)や、詰め物の下の微小な隙間、見逃されていた根管(神経の管)の入り口などを、直接的に発見することが可能になります。「見える」か「見えない」かは、診断と治療の質に、天と地ほどの差をもたらします。
  • 歯髄電気診 微弱な電流を歯に流し、その反応(ピリピリと感じるかどうか)を見ることで、歯の神経(歯髄)が「生きているのか(生活歯)」「死んでいるのか(失活歯)」「炎症を起こして過敏になっているのか(歯髄炎)」を、客観的に診断する検査です。
  • 歯周精密検査 全ての歯の周囲について、6点法(1本の歯の周りを6箇所)で歯周ポケットの深さを測定し、出血の有無(BOP)、歯の動揺度などを詳細に記録します。これにより、特定の場所にだけ局所的に進行している歯周病などを、正確に特定します。
  • 咬合診査 色のついた薄い紙(咬合紙)を噛んでもらったり、専用の装置(T-スキャンなど)を使ったりして、上下の歯が「いつ」「どこで」「どれくらいの強さで」当たっているか、特定の歯にだけ異常な力がかかっていないかを、ミクロン単位で分析します。

これらの精密検査を、患者さんの症状に応じてパズルのピースのように組み合わせることで、あなたの痛みの「真犯人」に迫っていくことができるのです。

9. 定期検診と併せて伝えたい自覚症状

精密検査に進むべきかどうかを判断する上で、また、その検査の焦点をどこに絞るかを決める上で、歯科医師にとって最も重要な情報源は、他の誰でもない、あなた自身が感じている「自覚症状」です。

あなたが、自分の痛みを、いかに具体的で、正確な「言葉」にして伝えられるか。それが、診断の精度とスピードを大きく左右します。「なんとなく痛い」という情報だけでは、捜査範囲が広すぎて、真犯人にたどり着くのが難しくなってしまいます。

次回の定期検診、あるいは痛みを相談しに行く際には、以下の点を整理して、可能であればメモに書いて持っていくことを強くお勧めします。これは恥ずかしいことではなく、非常に賢明な行動です。

【痛みの「性質」について】

どんな時に痛みますか?(例:冷たいものを飲んだ時だけ、温かいものがしみる、甘いものが痛い、噛んだ時、噛み終わって力を抜いた時、何もしなくてもズキズキする、朝起きた時が一番痛い、など)

どんな種類の痛みですか?(例:キーンと一瞬だけ響く鋭い痛み、ジンジン、ズキズキと脈打つような鈍い痛み、歯が浮いたような圧迫感のある痛み、など)

【痛みの「場所」と「時間」について】

どこが痛みますか?(例:指で正確に「この歯」と指せる、右上の奥歯全体がなんとなく痛い、上下の歯が当たると痛い、こめかみや顎の筋肉も痛い、など)

いつから痛みますか?(例:3日前から急に、1ヶ月くらい前から時々、数年前からずっと同じ症状がある、など)

痛みはどのくらい続きますか?(例:一瞬で消える、数分続く、一度痛むと数時間続く、一日中続く、など)

【その他、関連情報】

最近、何か変わったことはありましたか?(例:仕事が非常に忙しく、ストレスが溜まっている、寝不足が続いている、硬いもの(氷やナッツ)を食べた、風邪をひいていた(副鼻腔炎の可能性)、など)

これは、車の修理に例えると分かりやすいかもしれません。「なんだか調子がおかしい」と漠然と伝えるよりも、「時速60kmで高速道路を走っている時に、ハンドルが右にぶれるような、カタカタという音がする」と具体的に伝えた方が、整備士は原因(タイヤのバランスか、足回りか)を早く特定できますよね。あなたの「具体的な言葉」こそが、隠れた原因を見つけ出すための、最も重要な手がかりなのです。

10. 信頼できる歯科医師とのコミュニケーション

ここまで、様々な原因と検査について解説してきましたが、最終的に、原因不明の痛みを解決するために最も大切なことは、信頼できる歯科医師と、良好なコミュニケーションを築くことに尽きます。 どんなに優れた検査機器があっても、それを使いこなし、得られた情報と患者さんの訴えを統合して、最終的な診断を下すのは「人」=歯科医師です。

あなたが、生涯にわたって付き合える、真のパートナーとなる歯科医師には、以下のような特徴があるはずです。

  • あなたの話を、最後まで真剣に「傾聴」してくれる 途中で話を遮ったり、「それは違う」と否定したりせず、あなたが感じている痛みの描写や、不安な気持ちを、まずは共感を持って受け止めてくれる姿勢があるかどうか。痛みの診断は、問診から始まっています。
  • あなたの訴えを、決して軽視しない たとえ、レントゲンなどの検査で明らかな異常が見つからなくても、「気のせい」などと片付けず、「何か原因があるはずだ」という前提で、粘り強く可能性を探求してくれるかどうか。分からないことを「分からない」と正直に認め、次の手を考えてくれる誠実さがあるか。
  • 検査や診断について、分かりやすい言葉で丁寧に説明してくれる 専門用語を並べるだけでなく、写真や模型、イラスト、あるいはCT画像などを使って、あなたのお口の中で今、何が起こっている(あるいは、起こっていない)のかを、視覚的に理解できるように努めてくれるかどうか。
  • あなたを「治療チームの一員」として尊重してくれる 一方的に「こうしましょう」と治療方針を押し付けるのではなく、複数の選択肢を提示し、それぞれのメリット・デメリット、費用、期間などを公平に説明した上で、最終的な決定をあなた自身に委ねてくれるかどうか。

もし、あなたが現在の主治医との間に、こうした信頼関係を築けていないと(あるいは、築くのが難しいと)感じているのであれば、それはセカンドオピニオンを考える、もう一つの重要な理由かもしれません。 痛みを取り除くだけでなく、そのプロセスにおいて、あなたが納得し、安心できること。それが、真の医療だと私は考えています。

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あなたの「痛み」という声が、真実への唯一の道しるべ

定期検診で「異常なし」と言われたにも関わらず、歯が痛む。その不可解な現象の裏側にある、様々な原因と対策について、深く掘り下げてきましたが、いかがでしたでしょうか。 その「異常なし」という言葉の裏には、レントゲンには写らない初期の虫歯、知覚過敏、微細なひび、静かに進行する歯周病、そして過剰な「力」の問題など、実に多様なドラマが隠れていることを、ご理解いただけたかと思います。

この記事を通じて、最も大切なメッセージとしてお伝えしたいのは、「異常なし」という言葉は、決して「問題なし」という意味ではない、ということです。そして、あなたが感じている「痛み」は、気のせいなどではなく、あなたの体が発している、正直で、極めて重要なメッセージだということです。

どうか、その小さな声を、あなた自身が無視しないでください。その痛みを「気のせい」として放置してしまうことが、将来、神経を抜いたり、最悪の場合、歯を失ったりする事態への、第一歩になってしまうかもしれないのです。

あなたが「明日から」できる具体的な行動は、まず、ご自身の症状を、この記事の項目を参考にしながら詳しくメモに書き出すことです。それこそが、隠れた真の原因を見つけ出すための、唯一無二の道しるべとなります。 そして、そのメモを持って、現在の主治医、あるいは必要であればセカンドオピニオンの専門医に、ご自身の言葉で、諦めずに訴え続けてください。

信頼できるパートナーとなってくれる歯科医師と、二人三脚で、粘り強くその原因を追求していくこと。その主体的な行動こそが、あなたを長く続く不快な痛みから解放し、心からの安心と、健康な未来を取り戻すための、最も確実な道筋となるはずです。

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執筆者

丘の上歯科醫院 院長

平成16年:愛知学院大学(歯)卒業
IDA(国際デンタルアカデミー)インプラントコース会員
OSG(大山矯正歯科)矯正コース会員
YAGレーザー研究会会員

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