
「毎日、食後にはちゃんと歯を磨いているはずなのに、どうして私だけ、こんなに歯石がついてしまうんだろう…」「歯医者さんに行くたびに、『歯石が溜まっていますね』と指摘されて、なんだか恥ずかしい」。そんな風に、人知れず悩んでいませんか?
歯磨きを頑張っている真面目な人ほど、その努力が報われないことに、やるせなさや諦めの気持ちを抱いてしまうものです。私自身、歯科医療の現場で、そうした患者さんの切実な声に、これまで何度も耳を傾けてきました。
しかし、もしその歯石のつきやすさが、単なる「歯磨きの仕方が悪い」という一言では片付けられない、あなた自身の「体質」や「お口の個性」に深く関わっているとしたら、どうでしょうか。実は、歯石がつきやすい人には、いくつかの明確な共通点があるのです。
これから、なぜ個人差が生まれるのか、その科学的な理由から、歯石が好んで溜まる「魔のスポット」、そして、あなたの努力を無駄にしないための、今日から実践できる具体的な予防策まで、プロの視点から、その全てを徹底的に解説していきます。この記事を読み終える頃には、あなたはもう、闇雲に歯をゴシゴシ磨くのではなく、自分のお口の弱点を理解し、戦略的にプラークをコントロールする「賢いケア」を始められるようになっているはずです。
目次
- 唾液の性質(アルカリ性)と歯石の関係
- 歯並びが悪いと歯石がたまりやすい理由
- 磨き残しが多い「歯石の好発部位」とは
- 糖分の多い食生活が与える影響
- セルフケア不足が招く悪循環
- 歯石の付きやすさを調べる唾液検査
- あなたに合った歯ブラシと歯磨き粉の選び方
- デンタルフロスや歯間ブラシの重要性
- 定期的な歯石除去でリセットする
- つきにくい口内環境を作るプロのケア
1. 唾液の性質(アルカリ性)と歯石の関係
「歯石のつきやすさは、生まれつきの体質も関係する」。そう聞くと、驚かれるかもしれません。その鍵を握っているのが、あなたのお口の中を常に潤している「唾液の性質」です。
まず、歯石がどのようにして作られるのか、そのプロセスを理解しましょう。歯石の正体は、歯の表面に付着したプラーク(歯垢)が、唾液の中に含まれるカルシウムやリンといったミネラル成分と結びついて、文字通り「石」のように硬く固まったものです。この現象を「石灰化」と呼びます。
そして、この石灰化を促進する、非常に重要な要素が、唾液のpH(ペーハー)、つまり酸性かアルカリ性か、という性質なのです。
- 酸性の唾液:虫歯菌が作り出す酸を中和しきれず、歯が溶けやすい環境。つまり、虫歯になりやすい傾向があります。
- アルカリ性の唾液:酸を中和する能力(緩衝能)が高く、歯が溶けにくい環境です。しかし、このアルカリ性の環境は、唾液中のリン酸カルシウムが飽和状態になりやすく、プラークの石灰化を強力に促進してしまうのです。つまり、歯石がつきやすい傾向があります。
これは、電気ポットの底に、水中のミネラル分が白く固まって付着する「水垢(スケール)」と、全く同じ原理です。アルカリ性の唾液を持つ人は、言わば、お口の中が「水垢のできやすいポット」のような状態になっているのです。
私が以前、唾液検査を行ったある患者さんは、非常に熱心に歯を磨くにも関わらず、下の前歯の裏側にすぐに歯石がついてしまうことに、長年悩んでいました。検査の結果、彼の唾液は、平均よりも明らかにアルカリ性に傾いていることが判明しました。
この客観的な事実を知った彼は、「自分の努力不足じゃなかったんだ」と、心から安堵すると同時に、「だからこそ、他の人以上にプラークの段階で徹底的に除去しなければならない」と、ケアへの意識を新たにしていました。
この唾液の性質は、遺伝的な要因も大きく、残念ながら、自分の意思で変えることはできません。しかし、この「自分は歯石がつきやすい体質なんだ」という事実を知ることこそが、より精度の高いセルフケアを始めるための、最も重要な第一歩となるのです。
関連記事:虫歯の進行を防ぐためにできる10の対策|今日から始めるセルフケアと歯科知識
2. 歯並びが悪いと歯石がたまりやすい理由
あなたの歯並びは、いかがでしょうか。もし、歯が重なり合っていたり、ねじれて生えていたり、デコボコしていたりする場所があるとしたら、そこは「歯石の温床」となっている可能性が極めて高いと言えます。
これを、部屋の掃除に例えてみましょう。広々とした、何もないフローリングの床を掃除するのは、とても簡単ですよね。しかし、家具がごちゃごちゃと置かれ、狭い隙間や隅っこがたくさんある部屋を、隅々まで完璧にきれいに保つのは、至難の業です。
お口の中も、これと全く同じです。
歯並びが整っているお口は、歯ブラシの毛先が、歯の表面全体にスムーズに当たりやすく、効率的にプラークを除去することができます。しかし、歯並びが悪い場所は、構造的に、どうしても「プラークの罠(プラークトラップ)」となってしまうのです。
- 歯が重なり合っている部分:歯と歯が密着し、隠れた隅っこができます。ここは、歯ブラシの毛先が物理的に届かず、プラークが安全に繁殖できる「聖域」となります。
- ねじれて生えている歯:歯の向きが複雑なため、磨く角度を細かく変えないと、磨き残しが必ず発生します。
- 八重歯など、外側に飛び出している歯:その歯の根元の部分は、くぼんだ形になるため、意識して磨かないと、プラークが溜まりやすくなります。
特に、下の前歯がガタガタに並んでいる方は、その内側(舌側)に、びっしりと歯石が付着しているケースが、非常に多く見受けられます。ここは、ただでさえ唾液腺の出口に近く、歯石ができやすい上に、歯並びの悪さが加わることで、まさに「歯石製造工場」のような状態になってしまうのです。
私が診てきた患者さんの中には、長年、部分的な歯石の付着に悩まされていた方が、思い切って矯正治療を行ったところ、歯並びが整ったことでブラッシングが劇的に楽になり、あれほど苦労していた歯石の問題が、嘘のように解決したという事例も少なくありません。歯並びの悪さは、単なる見た目の問題ではなく、清掃性を著しく低下させ、歯石のリスクを根本的に高めてしまう、重大な構造的欠陥なのです。

3. 磨き残しが多い「歯石の好発部位」とは
歯石は、お口の中のどこにでも、均等に付着するわけではありません。実は、歯石が特に好んで作られる、いわば「歯石の三大好発部位(ホットスポット)」が存在します。この場所を知っているかどうかで、あなたの歯磨きの戦略と、その結果は、全く違ったものになります。
- 下の前歯の内側(舌側)
ここが、断トツで最も歯石がつきやすい、王様のスポットです。その理由は、この場所のすぐ下に、唾液を分泌する大きな唾液腺(舌下腺・顎下腺)の出口(開口部)があるからです。蛇口から水が常に出続けているようなもので、常に新鮮でミネラル豊富な唾液に、この部分の歯がさらされています。そのため、わずかでもプラークの磨き残しがあると、唾液のミネラルと瞬時に反応し、あっという間に石灰化して、歯石へと変わってしまうのです。 - 上の奥歯の外側(頬側)
下の前歯に次いで、歯石ができやすいのがこの場所です。耳下腺(おたふく風邪で腫れる場所)から分泌される唾液の出口が、この上の奥歯の頬側あたりに開いているためです。ここも、常にミネラル豊富な唾液にさらされる、ハイリスクエリアと言えます。 - 歯と歯の間(歯間部)
歯ブラシの毛先が、物理的に届かないのが、この歯と歯の間です。どんなに丁寧に歯ブラシを当てても、歯間部のプラークは、約40%も残ってしまうと言われています。この手つかずのプラークが、ゆっくりと石灰化し、歯石の土台を築いていきます。
私が患者さんのブラッシング指導をする際には、まず、この三大好発部位を鏡で一緒に確認し、「あなたの戦うべき敵は、主にこの3箇所に潜んでいます」とお伝えします。闇雲に、全ての歯を同じようにゴシゴシと磨くのではなく、これらの「弱点」を意識し、より多くの時間をかけて、より丁寧にアプローチする。その戦略的な視点を持つことこそが、効率的に歯石を予防するための、最も賢い方法なのです。
4. 糖分の多い食生活が与える影響
「甘いものを食べると、虫歯になる」。これは、誰もが知っている常識です。では、「甘いものを食べると、歯石もつきやすくなる」ということは、ご存知でしょうか。直接、砂糖が歯石に変わるわけではありませんが、糖分の多い食生活は、歯石の「材料」となるプラークを、爆発的に増殖させる、最悪の引き金となります。
そのメカニズムを、雑草だらけの庭に例えてみましょう。
- 糖分は、プラーク菌にとっての「最高の肥料」
お口の中にいる虫歯菌や歯周病菌は、糖分をエネルギー源として生きています。あなたが、甘いお菓子やジュースを口にすると、それはまるで、庭の雑草に、栄養満点の高級な肥料をたっぷりと与えているようなものです。細菌たちは、その豊富な栄養を使って、猛烈な勢いで分裂・増殖し、あっという間に数を増やしていきます。 - プラークが、より「ネバネバ」で「強力」になる
さらに、細菌は、糖分を分解する過程で、「グルカン」という、非常に粘着性の高い、ネバネバした物質を作り出します。このグルカンが、細菌同士を強力に結びつけ、歯の表面に頑固にこびりつく、より質の悪いプラークを形成します。サラサラとした汚れではなく、まるで強力な接着剤で固められたような、落としにくい汚れへと、プラークが質的に変化してしまうのです。
つまり、糖分の多い食生活は、プラークの「量」を増やし、さらに「質」を悪化させるという、二重の悪影響を及ぼします。そして、この分厚く、粘着性の高いプラークは、歯ブラシで落としにくくなるだけでなく、唾液による石灰化を受けるための、広大で理想的な「土台」を提供することになるのです。
特に、アメやガム、清涼飲料水などを、時間を決めずにダラダラと摂取する「ながら食べ・飲み」の習慣は、お口の中が常に砂糖水に浸っているような状態を作り出し、プラークの製造工場を24時間稼働させているのと同じです。食事は時間を決めて、規則正しく。それが、お口の中の雑草を、これ以上増やさないための、基本的な鉄則です。
関連記事はこちら:子どもの虫歯を防ぐために親ができる10のこと【年齢別・習慣別に徹底解説】
5. セルフケア不足が招く悪循環
ここまで、歯石がつきやすい様々な原因について解説してきました。そして、これらの原因が、日々の不十分なセルフケアと結びついた時、お口の中では、抜け出すことの困難な「歯石増殖の悪循環」が始まってしまいます。
この恐ろしい負のスパイラルが、どのようにして形成されていくのか、そのステップを見ていきましょう。
スタート:磨き残し
日々の歯磨きで、歯と歯の間や、歯並びの悪い場所などに、わずかなプラークが残ります。
第1段階:歯石の形成
残ったプラークが、唾液のミネラルによって石灰化し、硬い「歯石」になります。
第2段階:新たなプラークの温床
形成された歯石の表面は、天然の歯の表面(エナメル質)とは比較にならないほど、ザラザラで、無数の微細な凹凸があります。このザラザラした表面は、新たなプラークが付着するための、絶好の「足場」となります。
第3段階:清掃性のさらなる悪化
歯石の上に、新たなプラークが層状に付着します。このプラークは、ただでさえ落としにくい上に、歯石という土台の上にいるため、歯ブラシやフロスで除去することが、さらに困難になります。
第4段階:悪循環の完成
除去されなかった新しいプラークが、再び唾液によって石灰化し、既存の歯石の層の上に、さらに新しい歯石の層を形成します。歯石が、雪だるま式に、どんどん大きく、分厚く成長していくのです。
私が患者さんのお口の中を拝見する時、この悪循環に陥っている方は、一目で分かります。歯石は、歯茎の炎症(歯肉炎)を引き起こし、歯茎を腫れさせます。そして、腫れた歯茎は、さらに歯と歯茎の間の溝を深くし、プラークが溜まりやすい環境を助長します。
この負のスパイラルを断ち切る方法は、ただ一つ。プラークが歯石に変わる前の、柔らかい段階で、毎日完璧に除去し続けること。そして、もし歯石になってしまったら、速やかにプロの手でリセットしてもらうこと。それ以外に、この悪循環から抜け出す道はないのです。

6. 歯石の付きやすさを調べる唾液検査
「自分は、そもそも歯石がつきやすい体質なのかどうか、科学的に知ることはできないの?」。そんな疑問に答えてくれるのが、現代の予防歯科で行われている「唾液検査」です。これは、あなたの唾液を少量採取し、その成分や性質を分析することで、あなたが抱えている、目に見えない「虫歯リスク」や「歯周病・歯石リスク」を、客観的なデータとして可視化する、非常に有効な検査です。
唾液検査では、主に以下のような項目を調べることができます。
- 唾液のpH:あなたのお口が、普段、酸性に傾きやすいのか、それともアルカリ性に傾きやすいのかを、数値で正確に把握できます。アルカリ性の傾向が強ければ、あなたは「歯石ができやすい体質」である可能性が高い、と科学的に判断できます。
- 唾液の緩衝能:食事によって酸性に傾いたお口の中を、中性に戻す能力の高さを調べます。この能力が低いと、歯が溶けやすい、つまり虫歯になりやすいと言えます。
- 唾液の分泌量:唾液の量が少ないと、お口の中の汚れを洗い流す自浄作用が低下し、あらゆるトラブルのリスクが高まります。
- 特定の細菌の数:虫歯菌(ミュータンス菌など)や、歯周病に関連する細菌が、どのくらいお口の中に存在しているかを調べることもできます。
これらの検査結果を総合的に分析することで、「あなたは、虫歯のリスクは低いけれど、唾液がアルカリ性なので、歯石が非常に付きやすいタイプです。ですから、フッ素よりも、プラークを徹底的に除去することに、日々のケアの重点を置きましょう」といった、あなたのためだけに作られた、オーダーメイドの予防戦略を立てることが可能になります。
もはや、予防は「勘」や「経験」だけで行う時代ではありません。唾液検査という客観的なデータに基づいて、自分自身の弱点を正確に知り、そこを重点的にケアする。それが、あなたの努力を、最短距離で最高の結果に結びつける、最も科学的で、賢明なアプローチなのです。
参考ページ:子供の虫歯予防に最適!小児歯科で行う定期健診の重要性
7. あなたに合った歯ブラシと歯磨き粉の選び方
歯石予防の基本が、日々のプラーク除去である以上、その主役となる「歯ブラシ」と「歯磨き粉」の選択は、極めて重要です。ドラッグストアの棚に並んだ、無数の製品の中から、なんとなくで選んでしまってはいけません。あなたの「お口の個性」に合わせた、最適なツールを選ぶための、プロの視点をお伝えします。
あなたに合った「歯ブラシ」の選び方
「大きいヘッドで、硬い毛の方が、よく磨ける気がする」。これは、歯石がつきやすい人が陥りがちな、最も危険な誤解の一つです。
- ヘッドの大きさ:お口の隅々、特に歯並びの悪い場所や、一番奥の歯の裏側まで、小回りを利かせてアプローチできるよう、ヘッドはできるだけ「コンパクト」なものを選びましょう。
- 毛の硬さ:歯石の好発部位である歯と歯茎の境目を、優しく、しかし確実に清掃するためには、「ふつう」か「やわらかめ」が絶対条件です。「かため」は、歯茎を傷つけ、歯茎痩せの原因になるだけでなく、硬すぎて歯周ポケットの中に毛先が入り込みにくい、というデメリットさえあります。
- 毛先の形状:歯と歯の間や、歯周ポケットに届きやすいよう、毛先が細く加工された「テーパー毛(先細毛)」も、非常に有効な選択肢です。
- 秘密兵器「ワンタフトブラシ」:歯ブラシのヘッドが鉛筆の先のように、小さく一つにまとまった特殊なブラシです。歯並びがガタガタしている場所や、奥歯の裏側など、通常の歯ブラシでは絶対に届かない「最後の聖域」を、ピンポイントで磨き上げるための、最強のツールです。
あなたに合った「歯磨き粉」の選び方
歯磨き粉の泡立ちや爽快感に惑わされてはいけません。注目すべきは、その「薬用成分」です。歯石予防を目的とするなら、以下の成分が配合されているか、成分表示をチェックしてみてください。
歯石の沈着を防ぐ成分:プラークが石灰化するのを、化学的に抑制する働きがあります。
- ポリリン酸ナトリウム
- ゼオライト
プラークを分解する酵素:プラークそのものを分解し、剥がれやすくします。
- デキストラナーゼ(DEX)
細菌を殺菌する成分:プラークの元となる細菌の数を減らします。
- 塩化セチルピリジニウム(CPC)
- イソプロピルメチルフェノール(IPMP)
ただし、絶対に忘れてはいけないのは、どんなに優れた歯磨き粉も、すでに形成されてしまった歯石を溶かしたり、除去したりすることはできない、ということです。歯磨き粉は、あくまで「これからできる歯石を予防する」ための、補助的な役割なのです。
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8. デンタルフロスや歯間ブラシの重要性
もし、あなたが今、毎日のオーラルケアを「歯ブラシだけ」で済ませているとしたら、それは非常に残念ながら、お口全体の約40%もの面積を、全く掃除しないまま放置しているのと同じことです。その40%とは、言うまでもなく、「歯と歯の間」。そして、そここそが、歯石が最初に作られる、最大の温床なのです。
歯ブラシの毛先は、どんなに細いものでも、隣り合う歯が接触している、きつい隙間の中には、物理的に入っていくことができません。この、歯ブラシにとっての「絶対不可侵領域」を清掃できる唯一のツールが、「デンタルフロス」や「歯間ブラシ」といった、歯間清掃用具なのです。
その重要性は、もはや議論の余地がありません。歯間清掃用具の使用は、面倒な人が行うオプションのケアではなく、歯ブラシとセットで考えるべき、オーラルケアのノンネゴシアブルな(譲れない)必須科目なのです。
- デンタルフロス:主に、歯と歯の隙間が狭い場所、特に若い世代の方や、下の前歯のように歯が密集している場所に適しています。重要なのは、ただ糸を隙間に通すだけでなく、Cの字を描くように、歯の側面に沿わせて、歯茎の溝の少し中まで優しく挿入し、側面をこするように上下に動かすことです。これにより、側面にこびりついたプラークを、効率的に剥がし取ることができます。
- 歯間ブラシ:歯と歯の間の隙間が、加齢や歯周病によって広くなってきた場所や、ブリッジの下などを清掃するのに、非常に効果的です。ここで最も重要なのは、フロス以上に「サイズの選択」です。隙間に対して、細すぎるサイズではプラークを取り残し、逆に太すぎるサイズを無理に挿入すると、歯茎を傷つけ、歯茎痩せを助長する原因にもなりかねません。歯科医院で、あなたに合った適切なサイズを、一度指導してもらうことが、安全で効果的な使用のための、絶対条件です。
毎日の歯磨きの前に、フロスや歯間ブラシを使う習慣をつけること。それは、歯石の最大の発生源を、根本から断つための、最も確実で、最も効果的な一撃なのです。

9. 定期的な歯石除去でリセットする
ここまで、歯石を「つけない」ための、日々の徹底したセルフケアについて解説してきました。しかし、どんなに完璧なケアを毎日続けていたとしても、特に歯石がつきやすい体質の方や、歯並びが複雑な方は、どうしてもセルフケアだけでは100%プラークを除去しきることは困難です。そして、わずかに残ったプラークが、少しずつ、しかし確実に石灰化し、歯石へと姿を変えていきます。
一度、コンクリートのように硬く固まってしまった歯石は、もはや、あなたの歯ブラシやフロスでは、絶対に太刀打ちできません。無理に自分で取ろうとすれば、歯や歯茎を傷つけてしまうだけで、百害あって一利なしです。
そこで不可欠になるのが、定期的に歯科医院で受けるプロフェッショナルな「歯石除去(スケーリング)」です。これは、車のオイル交換や、エアコンの内部洗浄のように、専門家が、専門の器具を使わなければできない、必須のメンテナンスなのです。
歯科医師や歯科衛生士は、
- 超音波スケーラー:超音波の微細な振動で、歯の表面にこびりついた硬い歯石を、効率的に粉砕・除去する器具。
- ハンドスケーラー:超音波スケーラーでは届かない、歯周ポケットの奥深くや、根の複雑な形態の部分を、術者の繊細な感覚を頼りに、一本一本手作業で丁寧に除去していく器具。
を使い分け、歯の表面はもちろん、歯茎の溝の中に隠れた、セルフケアでは絶対に届かない場所の歯石まで、徹底的に取り除きます。
私がいつも患者さんにお伝えするのは、「プロによる歯石除去は、お口の中の大掃除であり、悪化しかけた環境の『完全リセット』です」ということです。このリセットを、3ヶ月〜半年に一度、定期的に行うことで、お口の中は、再びセルフケアが効果的に機能する、クリーンな状態に戻ります。この「セルフケア」と「プロフェッショナルケア」の、理想的なサイクルを回し続けることこそが、歯石に悩まされない、快適な口腔環境を、生涯にわたって維持するための、唯一無二の道筋なのです。
10. つきにくい口内環境を作るプロのケア
定期的な歯石除去は、すでにできてしまった歯石を取り除く、「対症療法」的なアプローチです。しかし、現代の予防歯科は、さらにその先、つまり、「そもそも歯石がつきにくい、滑らかな口内環境を、積極的に作り上げる」という、より本質的なアプローチへと進化しています。
その中心となるのが、PMTC(Professional Mechanical Tooth Cleaning)と呼ばれる、専門家による特別なクリーニングです。
PMTCは、単なる歯石取りではありません。その主な目的は、歯石になる前の段階の、ネバネバした細菌の膜「バイオフィルム」を、専用の機器を使って、物理的に破壊・除去することです。バイオフィルムは、台所の排水溝のヌメリのようなもので、細菌が寄り集まって形成する、非常に強力なバリアです。この膜は、歯磨き粉の薬用成分や、体の免疫機能さえも跳ね返してしまうため、セルフケアだけで完全に除去するのは、極めて困難です。
PMTCでは、
- ラバー製の柔らかいカップや、特殊なブラシ
- フッ素や、歯の再石灰化を促す成分が配合された、微粒子の研磨ペースト
を使い、歯の一本一本の表面を、隅々まで丁寧に磨き上げていきます。
このPMTCがもたらすメリットは、計り知れません。
- バイオフィルムの完全な除去:細菌のすみかを根本から破壊し、歯周病や虫歯のリスクを劇的に低減させます。
- 歯面の滑沢化による、プラークの再付着防止:処置後の歯の表面は、まるで陶器のようにつるつるになります。この滑らかな表面には、新たなプラークが付着しにくく、たとえ付着しても、日々のブラッシングで簡単に落とすことができるようになります。まるで、フライパンをテフロン加工するような、「汚れがつきにくい歯にする」効果が期待できるのです。
- 審美性の向上:コーヒーや紅茶、タバコなどによる、日常的な着色(ステイン)も同時に除去できるため、歯が本来の白さと輝きを取り戻します。
このPMTCと、あなた自身の弱点を的確に指摘し、改善策を指導する「ブラッシング指導(TBI)」を組み合わせること。それが、歯科医院というプロフェッショナルな環境でしか実現できない、歯石がつきにくい口内環境を作り上げるための、最強のタッグなのです。
関連記事はこちら:虫歯ができやすい人の特徴と対策
負のスパイラルを断ち切り、自信の持てるお口へ
歯石がつきやすい人の特徴と、その対策について、様々な角度から深く掘り下げてきましたが、いかがでしたでしょうか。
歯石の問題が、単なる「磨き残し」という一言では片付けられない、あなた自身の体質や、お口の構造、そして生活習慣全体が複雑に絡み合った、根深い問題であることを、ご理解いただけたかと思います。
しかし、どうか悲観しないでください。原因が明確であるということは、そこには必ず、的確な対策が存在する、ということでもあります。
- 自分の「弱点」を知る(唾液の性質、歯並び)
- 「敵の拠点」を知る(三大好発部位)
- 「最適な武器」を選ぶ(歯ブラシ、歯磨き粉、歯間清掃用具)
- 「正しい戦術」を身につける(日々のセルフケア)
- そして、定期的に「プロの援軍」を頼る(歯科医院でのメンテナンス)
この5つのステップを、あなたの生活の中に、当たり前の習慣として組み込むことができた時、これまであなたを悩ませてきた「歯石がつきやすい」という負のスパイラルは、必ずや断ち切ることができるはずです。
もう、「どうせ磨いても、またすぐにつくから」と、諦める必要はありません。今日から始める、賢く、そして戦略的なケアが、あなたの努力を裏切らない、自信の持てるクリーンなお口の環境を、未来永続的にもたらしてくれるでしょう。
執筆者
内藤洋平
丘の上歯科醫院 院長
平成16年:愛知学院大学(歯)卒業
IDA(国際デンタルアカデミー)インプラントコース会員
OSG(大山矯正歯科)矯正コース会員
YAGレーザー研究会会員



























