
「うちの子、乳歯の時は綺麗だったのに、永久歯が生えてきたらガタガタになってきた気がする」
「私が歯並びで苦労したから、子どもには同じ思いをさせたくない」
ふとした時にお子様の口元を見て、このような不安を感じたことはありませんか。歯並びは、見た目の印象を左右するだけでなく、噛み合わせや発音、さらには全身の健康発育にも深く関わる重要な要素です。親御さんにとって、お子様の歯並びを整えてあげることは、一生消えることのない「健康という財産」をプレゼントすることに他なりません。
これから解説するのは、小児歯科の現場で行われている矯正治療のリアルな情報です。インターネット上には「早ければ早いほど良い」という情報もあれば、「大人になってからで十分」という意見もあり、何が正解か分からなくなってしまうこともあるでしょう。ここでは、専門的な視点から、正しい開始時期の見極め方や、費用、治療の流れについて、メリットだけでなくデメリットも含めて詳しく紐解いていきます。
目次
1. 子どもの歯並びが悪くなる原因とは?
「私の歯並びが悪いから、子どもに遺伝してしまったのかしら…」と、ご自身を責める親御さんがいらっしゃいますが、決してそれだけが原因ではありません。確かに顎の大きさや歯のサイズは遺伝の影響を受けますが、近年の研究では、後天的な生活習慣や環境要因の方が、歯並びに与える影響が大きいことが分かってきています。
なぜ現代の子どもたちの歯並びが悪くなっているのか、その根本的なメカニズムを理解することで、家庭でできる予防や早期発見のヒントが見えてきます。
「遺伝」と「環境」のバランス
歯並びが悪くなる要因は、大きく分けて「先天的(遺伝)」なものと、「後天的(環境・習癖)」なものに分類されます。
最大の敵は「口呼吸」と「舌の位置」
特に注目していただきたいのが「口呼吸」です。本来、安静時の舌は、上顎の天井部分(口蓋)にピタリと吸着しているのが正しい位置です。この舌の力が内側から上顎を押し広げ、綺麗なアーチ状の歯並びを作っていきます。
しかし、鼻炎やアデノイド肥大、あるいは単なる癖で口呼吸になっているお子様は、舌が常に下の歯の裏側(低位舌)に落ちています。すると、上顎を広げる力が働かず、逆に頬の筋肉が外側から締め付けるため、上顎の歯列が「V字型」に狭くなってしまいます。その結果、永久歯が生えるスペースがなくなり、ガタガタの歯並び(叢生)になってしまうのです。
「よく噛まない」現代っ子の食事情
ハンバーグ、カレー、パスタなど、現代の食事はあまり噛まなくても飲み込める柔らかいメニューが中心です。古代人に比べて現代人の顎が小さくなっているのは、進化というより「退化」に近い現象です。
硬いものを噛むことだけが重要なのではなく、「前歯で噛み切る」という動作が減っていることも問題です。前歯を使うことで顎の成長が促されるため、リンゴの丸かじりや、大きめのお肉を食卓に出すといった工夫も、立派な「家庭でできる矯正」の一つと言えます。
お家でチェック!危険サインリスト
● テレビを見ている時など、無意識にポカンと口が開いている
● 食事中にクチャクチャと音を立てて食べる(口を閉じて噛めない)
● いびきをかく、または寝ている時に口が開いている
関連記事はこちら:子どもの予防歯科と早期ケア
2. 矯正治療を始めるのに最適な年齢
「矯正はいつから始めたらいいですか?」
これは小児歯科で最も頻繁に受ける質問の一つです。結論から申し上げますと、「6歳〜7歳(前歯の生え変わり時期)」が一つの大きな目安となりますが、症状によってはもっと早く、3歳頃から介入が必要なケースもあります。
「1期治療」と「2期治療」の違いを知る
小児矯正は、子どもの成長段階に合わせて大きく2つのステージに分かれます。この違いを理解していないと、「いつまで経っても終わらない」という誤解を生んでしまうことがあります。
1期治療を受ける最大のメリット
「どうせ大人になってから矯正するなら、今はやらなくてもいいのでは?」と思われるかもしれません。しかし、1期治療を受けることで、将来的に大きな恩恵を受けることができます。
- 抜歯矯正のリスクが減る:
子どものうちに顎を適正な大きさに広げておくことで、永久歯を並べるスペースができ、健康な歯を抜かずに矯正できる可能性が高まります。 - 骨格的なコンプレックスを解消:
極端な出っ歯や受け口は、成長期に対処しないと、大人になってからでは「顎の骨を切る手術(外科矯正)」が必要になることがあります。 - 2期治療が不要、または簡単になる:
土台が整っていれば、仕上げの治療が短期間で済んだり、場合によっては1期治療だけで完了したりすることもあります。
急ぐべき「受け口(反対咬合)」
年齢に関わらず、見つけたらすぐに相談していただきたいのが「受け口」です。下の歯が上の歯より前に出ている状態は、上顎の成長を阻害してしまうため、放置すると顔つき(骨格)に変形が生じます。
3歳児検診で指摘された場合、自然治癒を待つこともありますが、マウスピース型の装置(ムーシールドなど)を使って、就寝時のみの低負担な治療を早期に開始することが推奨されるケースが増えています。

3. 小児歯科で行う矯正の種類と特徴
「矯正=金属のギラギラした装置」というイメージは、もはや過去のものです。特に小児矯正の分野では、取り外しができる装置や、透明で目立たない装置など、お子様の生活スタイルや性格に合わせて多様な選択肢が用意されています。
自分で取り外せる「床矯正(しょうきょうせい)」
1期治療で最もポピュラーなのが、入れ歯のような形をした「拡大床(かくだいしょう)」という装置です。真ん中にあるネジを少しずつ回すことで、装置自体を広げ、内側から顎の骨をゆっくりと拡大していきます。
- ● メリット: 食事や歯磨きの時は外せるので虫歯になりにくい。学校にしていく必要がない(在宅時と就寝時のみでOKな場合が多い)。
- ● デメリット: 本人がサボって装着しないと全く効果が出ない。喋りにくくなることがある。
近年急増している「マウスピース矯正」
「プレオルソ」や「マイオブレース」、「インビザライン・ファースト」といったマウスピース型の装置も人気です。これらは単に歯を動かすだけでなく、「口周りの筋肉のトレーニング」を兼ねているのが特徴です。
装置を入れることで、正しい舌の位置を覚えさせたり、口呼吸を鼻呼吸へ誘導したりします。原因(習癖)そのものにアプローチするため、治療後の後戻りが少ないという利点があります。柔らかい素材のものが多く、痛みが少ないのもお子様に喜ばれるポイントです。
確実性を重視する「固定式装置」
ご自身での管理が難しい場合や、歯の移動量が多い場合は、歯に直接接着する固定式の装置を選択します。
- ● 急速拡大装置: 上顎の骨の継ぎ目を広げる強力な装置。短期間で確実に顎を広げることができます。
- ● リンガルアーチ: 歯の裏側に沿わせるワイヤー。歯が生えるスペースを確保したり、奥歯が前に動くのを防いだりします。
4. 治療期間と通院頻度の目安
小児矯正は、大人の矯正のように「2年で終わります」と一概に言えない難しさがあります。なぜなら、お子様の成長発育を利用するため、体の成長が終わるまで長いスパンで見守る必要があるからです。
治療期間のイメージ
一般的な1期治療(骨格矯正)の期間は、約1年〜3年程度です。ただし、これは装置を積極的に動かしている期間(動的治療期間)のことです。
その後、全ての永久歯が生え揃う(中学生頃)まで、数ヶ月に一度のチェックだけで済む「経過観察期間」に入ります。ここで問題がなければ治療終了ですが、細かい歯並びの乱れが残る場合は、そのまま2期治療(仕上げ矯正)へ移行します。
トータルで見ると、小学校低学年から中学生頃まで、細く長くお付き合いが続くことになります。「そんなに長く通うの?」と思われるかもしれませんが、常に装置をつけているわけではないので、ご安心ください。
通院頻度はどのくらい?
装置を使用している期間は、1ヶ月〜2ヶ月に1回程度の通院が一般的です。この時に行うのは主に以下のことです。
- ● 装置の調整(ネジを回したり、ワイヤーを締めたりする)
- ● 顎の拡大状況や歯の動きのチェック
- ● 虫歯のチェックとフッ素塗布、クリーニング
- ● 口周りの筋力トレーニング指導(MFT)
特に重要なのが「モチベーションの維持」です。長期間の治療になるため、お子様が飽きてしまったり、装置を嫌がったりする時期が必ず来ます。定期的に歯科医院に通い、スタッフに褒めてもらったり励ましてもらったりすることが、治療を継続する大きな力になります。
治療をスムーズに進めるコツ
- 「受験」や「部活」との兼ね合いを相談する:
忙しくなる時期は装置を一時的に休むなど、ライフスタイルに合わせた計画を立ててもらいましょう。 - 通院をイベント化する:
「歯医者さんの帰りは好きな本を買う」など、楽しみを作ることで通院が苦にならなくなります。 - 親子でゴールを共有する:
「いつまでにこうなりたいね」という具体的な目標を持つことが、毎日の装着を支えます。
参考ページ:子供の虫歯予防に最適!小児歯科で行う定期健診の重要性
5. 矯正治療にかかる費用と支払い方法
矯正治療を検討する際、最も高いハードルとなるのが「費用」ではないでしょうか。日本では、審美目的の矯正治療には健康保険が適用されず、原則として「自費診療(自由診療)」となります。決して安い金額ではありませんが、将来への投資として捉えた時、その内訳や相場を知っておくことは重要です。
費用の相場(目安)
地域や医院によって異なりますが、一般的な相場は以下の通りです。
- ● 相談・検査・診断料: 3万円〜5万円
- ● 1期治療(小児矯正): 30万円〜50万円
- ● 2期治療(本格矯正): 30万円〜60万円
※1期から移行する場合、差額分のみで済む医院が多いです。最初から2期のみを行う場合は、大人と同じく70万円〜100万円程度かかります。 - ● 調整料(通院ごと): 3,000円〜5,000円
トータルで見ると大きな金額になりますが、1期治療だけで完了した場合は、大人になってから矯正するよりも費用を安く抑えられるケースが多くあります。
支払い方法の選択肢
一括払いが難しい場合でも、多くの歯科医院では柔軟な支払い方法を用意しています。
- ● 院内分割払い: 医院独自に分割を設定しており、金利手数料がかからないことが多いです。
- ● デンタルローン: 信販会社を通す方法で、数十回の長期分割が可能になります(金利あり)。月々数千円〜1万円程度の負担で始められるのがメリットです。
- ● クレジットカード払い: ポイントが貯まるメリットがあります。
忘れてはいけない「医療費控除」
子どもの矯正治療は、発育に必要な治療として認められるため、「医療費控除」の対象になります。
これは、1年間(1月1日〜12月31日)に支払った医療費が10万円(総所得金額等が200万円未満の人はその5%)を超えた場合、確定申告をすることで税金の一部が還付される制度です。通院にかかった公共交通機関の交通費も対象になりますので、領収書は必ず保管し、家計簿などで記録をつけておくことを強くお勧めします。
実質的な負担額を数万円〜十数万円単位で減らせる可能性があるため、この制度を使わない手はありません。

6. 見た目だけじゃない!歯並びが健康に与える影響
「歯並びを治す=見た目を良くする」という美容的な側面ばかりが注目されがちですが、小児矯正の本来の目的は、お子様の「身体の正常な発育」をサポートすることにあります。歯並びや噛み合わせが悪い状態(不正咬合)を放置すると、お口の中だけでなく、全身の健康や成長にまで多岐にわたる悪影響を及ぼす可能性があるからです。
噛むことと「脳・身体」の発達
「よく噛んで食べなさい」と昔から言われますが、これには科学的な根拠があります。しっかり噛む(咀嚼する)という行為は、顎の筋肉を使い、脳への血流を増加させます。これが脳神経を刺激し、記憶力や集中力を高める効果があることが分かっています。
しかし、歯並びが悪く噛み合わせがズレていると、効率よく噛むことができません。結果として、丸飲みをする癖がついたり、柔らかいものばかり好むようになったりします。これは栄養吸収を妨げるだけでなく、脳への刺激不足により、学習能力の発達にも影を落とす可能性があるのです。
運動能力と姿勢への影響
トップアスリートの多くが、歯並びや噛み合わせを非常に大切にしていることをご存知でしょうか。人は重いものを持ち上げたり、瞬発力を発揮したりする時、無意識に奥歯を食いしばって身体を固定します。
噛み合わせが悪いと、この食いしばる力が均等に入らず、身体のバランス(体幹)が崩れやすくなります。これが猫背や側湾症といった姿勢の悪化につながり、運動パフォーマンスの低下を招くこともあります。お子様の姿勢が悪い、すぐに転ぶといった悩みがある場合、実は足腰ではなく「口元」に原因があるかもしれません。
不正咬合が引き起こす具体的なリスク
歯並びが悪いことで生じる健康リスクを、具体的に整理してみました。見た目のコンプレックス以上に、これらを未然に防ぐことこそが矯正治療の真価です。
関連記事はこちら:子どもの矯正治療を始める前に知っておきたい10のポイント【適齢期・費用・治療法を徹底解説】
7. 矯正中の歯磨きとケアのポイント
矯正治療中に最も気をつけなければならないトラブル、それは「虫歯」です。せっかく歯並びが綺麗になっても、装置を外した時に歯が虫歯だらけになっていては本末転倒です。
特に固定式の装置(ワイヤー矯正など)をつけている期間は、口の中の複雑さが増し、通常の歯磨きだけでは汚れを落としきることが極めて困難になります。ここでは、矯正期間中にお子様と親御さんが実践すべき、鉄壁のケア方法を伝授します。
「食べたら磨く」の徹底
基本中の基本ですが、矯正中は「食べたらすぐ磨く」を習慣化する必要があります。装置の周りには食べカスが驚くほど挟まります。これを放置すると、数時間でプラーク(細菌の塊)が形成され、エナメル質を溶かし始めます。
学校での給食後も歯磨きができるよう、携帯用の歯ブラシセットを持たせることが大切です。もし時間がなくて磨けない場合でも、最低限「激しくブクブクうがい」をして、大きな食べカスだけは洗い流すよう指導してあげてください。
三種の神器を活用する
普通の歯ブラシ一本で戦おうとしてはいけません。矯正中の清掃には、専用の道具(三種の神器)を使いこなすことが不可欠です。
- ワンタフトブラシ:
筆のような形をした小さな歯ブラシです。ワイヤーの下や装置の周り、奥歯の裏側など、細かい部分をピンポイントで狙い撃ちできます。これが主役と言っても過言ではありません。 - 歯間ブラシ・矯正用フロス:
ワイヤーがあると普通のフロスは通りません。横から差し込める歯間ブラシや、先端が硬く加工された矯正用フロス(スーパーフロス)を使って、歯と歯の間の汚れを除去します。 - フッ素ジェル・洗口液:
物理的に磨いた後は、化学的な力で歯を強化します。高濃度のフッ素ジェルを塗り込んだり、殺菌成分のある洗口液でうがいをしたりして、虫歯菌の活動を抑制します。
親の「仕上げ磨き」はいつまで?
「もう小学生だから自分で磨けるでしょ」と思いがちですが、矯正期間中は別です。装置がついている状態での歯磨きは、大人でも難しいレベルの技術を要します。
少なくとも、小学校卒業までは親御さんが仕上げ磨き(または磨き残しのチェック)をしてあげることを強く推奨します。「過保護かな?」と思う必要はありません。これは治療の一環です。特に夜寝る前の仕上げ磨きは、虫歯リスクを激減させる最強の予防策となります。
虫歯ゼロを目指すチェックリスト
● 鏡を見ながら磨いているか(感覚だけで磨くと必ず磨き残す)
● 週に一度は「染め出し液」を使って汚れを見える化する
● おやつは「ダラダラ食べ」を避け、時間を決めて摂る
参考:小児歯科で虫歯治療!子供の痛みを軽減する治療方法とは?
8. 装置が壊れたり外れたりした時の対処法
矯正治療は数年に及ぶ長丁場です。その間、装置が壊れたり、痛みが出たりといったトラブルはつきものです。特に活発なお子様の場合、ボールが当たったり、硬いものを噛んだりして装置が破損することは珍しくありません。
いざという時にパニックにならず、冷静に対処できるよう、よくあるトラブルとその解決法を知っておきましょう。
トラブル別の緊急度と対応
全てのトラブルですぐに受診が必要なわけではありません。状況に応じて適切な判断をすることが、親御さんの負担軽減にもつながります。
痛みへの対処法
調整直後(特に最初の数日間)は、歯が動く痛みで食事が辛くなることがあります。これは治療が順調に進んでいる証拠でもありますが、お子様にとっては辛いものです。
- ● 食事の工夫: お粥、うどん、豆腐、ヨーグルトなど、あまり噛まずに食べられる柔らかいメニューを用意してあげてください。
- ● 痛み止めの使用: 我慢できない場合は、小児用の鎮痛剤(アセトアミノフェンなど)を服用しても問題ありません。無理をさせないことが継続のコツです。
「保護用ワックス」は必需品
固定式装置の場合、医院から「保護用ワックス(歯科用ワックス)」をもらうことが多いはずです。これは、粘土のようにちぎって装置の上に貼り付け、口の粘膜を保護するものです。
ワイヤーが当たって痛い時や、装置が擦れて口内炎ができそうな時は、迷わずこのワックスを使いましょう。食事や歯磨きの際は外しますが、万が一飲み込んでも害のない素材で作られているので安心です。無くなったらすぐに医院でもらい足しておくと、いざという時に慌てずに済みます。

9. 子どものやる気を引き出すための工夫
小児矯正の成功のカギを握るのは、歯科医師の腕でも、装置の性能でもありません。「お子様本人のモチベーション」です。特に取り外し式の装置は、本人がつけなければ効果はゼロ。ここが、親御さんが最も頭を悩ませるポイントでもあります。
「やらされている」から「自分でする」へ
治療開始当初は親主導でも構いませんが、徐々に「自分のためにやっているんだ」という自覚を持たせることが大切です。
そのためには、ポジティブなフィードバックが欠かせません。「歯並びが綺麗になったね」と褒めるのはもちろんですが、「毎日忘れずにつけられたね」「歯磨き頑張ってるね」と、「結果」ではなく「過程(努力)」を具体的に褒めることが、子どもの自己肯定感を高め、継続する力を育てます。
楽しみながら続けるアイデア
毎日のルーティンを少しでも楽しくするための工夫を取り入れてみましょう。
- ● カレンダー作戦: 装置をつけた日や歯磨きができた日にシールを貼る。シールが溜まったら、小さなご褒美(好きなご飯やお出かけなど)を用意する。
- ● ビフォーアフターの共有: 定期的に口の中の写真を撮り、「半年前はこんなだったのに、すごく綺麗になったよ!」と視覚的に変化を見せてあげる。
- ● 装置のカスタマイズ: カラーゴムを選べる装置や、可愛いケースを用意するなど、道具に愛着を持てるようにする。
やってはいけないNG行動
逆効果になってしまうのが、叱ったり脅したりすることです。
「高いお金を払ったんだからつけなさい!」「サボると歯を抜くことになるよ!」といった言葉は、子どもにとってプレッシャーでしかありません。矯正治療が「親に怒られる嫌な時間」になってしまうと、思春期に入った途端に拒否反応を示し、治療が中断してしまうケースもあります。
うまくいかない時は、叱るのではなく「どうしたらつけられるかな?」と一緒に解決策を考える姿勢を見せることが、親子の信頼関係を守り、治療を完走させる近道です。
10. 後戻りを防ぐための保定期間の重要性
いよいよ歯が綺麗に並び、矯正装置が外れる日。親子共に喜びの瞬間ですが、実は治療はここで終わりではありません。ここからが、手に入れた歯並びを一生モノにするための最終ステージ「保定期間(ほていきかん)」の始まりです。
なぜ「後戻り」は起きるのか
装置を外した直後の歯は、まだ骨の中でしっかりと固定されていません。例えるなら、植え替えたばかりの苗木のようなものです。土(骨)が固まるまでには時間がかかります。
さらに、歯の周りにある繊維組織や筋肉は、元の位置を記憶しています。そのため、何もしないとゴムが縮むように、歯は元の悪い歯並びに戻ろうとする力が働きます。これを「後戻り」と呼びます。矯正治療の失敗の多くは、この保定期間の管理不足によるものです。
リテーナー(保定装置)の役割
後戻りを防ぐために使用するのが「リテーナー」と呼ばれる保定装置です。マウスピースタイプや、歯の裏側に細いワイヤーを貼り付けるタイプなどがあります。
保定期間の目安は、一般的に「矯正装置をつけていた期間と同じくらい」、最低でも2年程度は必要と言われています。「もう治ったから大丈夫」と自己判断でリテーナーをサボってしまうと、数日で歯が動き出し、あっという間にガタガタになってしまいます。これまでの数年間の努力と費用を無駄にしないためにも、リテーナーの装着は絶対に守ってください。
保定期間の過ごし方
- 最初の半年〜1年は食事と歯磨き以外ずっと装着:
この時期が最も後戻りしやすいタイミングです。 - 徐々に夜間のみへ移行:
医師の指示に従って装着時間を減らしていきます。 - リテーナーの洗浄も忘れずに:
毎日口に入れるものなので、洗浄剤を使って清潔に保ちましょう。
お口の習癖(癖)を見直すラストチャンス
保定期間は、歯並びを悪くした原因である「口呼吸」や「舌の癖」が治っているかを確認する期間でもあります。もしこれらの癖が残っていると、どれだけリテーナーをしていても、長い年月をかけて再び歯並びは崩れていきます。
「鼻で呼吸をする」「正しい位置に舌を置く」。この基本的な機能が整って初めて、矯正治療は真のゴールを迎えます。最後まで気を抜かず、きれいな歯並びを体に覚え込ませていきましょう。
子どもの未来を輝かせるための「親からの最高のプレゼント」
ここまで、小児矯正の基礎知識から具体的な流れ、親御さんのサポート方法までを詳しく解説してきました。矯正治療は、時間も費用も手間もかかる大きなプロジェクトですが、それに見合うだけの、いやそれ以上の価値があるものです。
この記事で最もお伝えしたかったことは、「子どもの歯並びは、成長期の今しかできない土台作りが重要である」という点です。大人になってからでも歯並びは治せますが、顎の骨格そのものをコントロールできるのは、成長のエネルギーがある子ども時代だけです。この時期の適切な介入は、抜歯のリスクを減らし、健康的で美しい顔立ちを育むことにつながります。
読者の皆様に、明日から実践していただきたい具体的なアクションは以下の2つです。
- お子様がテレビを見ている時や寝ている時の「口元」を観察してみてください。
もし口がポカンと開いていたら、口呼吸のサインです。矯正の相談に行く良いきっかけになります。 - 「矯正相談(カウンセリング)」の予約を入れてみる。
治療を始めるかどうかは別として、現状の問題点と将来の予測を専門家に聞くだけでも、漠然とした不安は解消されます。
整った歯並びと自信に満ちた笑顔は、親御さんからお子様へ贈ることができる「一生モノのギフト」です。長い治療期間、親子でぶつかることもあるかもしれませんが、その先には必ず、輝く未来が待っています。
小児矯正に関するよくある質問
A. 小児矯正(1期治療)から始めれば、非抜歯の可能性が高まります。
成長期に顎を広げることでスペースを作れるためです。ただし、顎と歯の大きさの不調和が著しい場合は、将来的に抜歯が必要になるケースもゼロではありません。
A. 慣れてしまえば大きな支障はありません。
吹奏楽部(管楽器)や激しいコンタクトスポーツの場合は、装置の調整が必要なことがあります。受験期には通院間隔を空けるなど配慮しますので、事前にご相談ください。
A. 調整後2〜3日は痛みが出ることがありますが、徐々に慣れます。
全く食事ができないほどではありませんが、痛みがある時はうどんや豆腐など柔らかいものを勧めています。小児矯正は成人に比べて痛みが少ない傾向にあります。
A. 遅いということはありませんが、治療の選択肢が変わります。
大人の矯正は骨格的なアプローチが難しく、抜歯矯正や外科矯正が必要になる頻度が上がります。成長を利用できる小児期の方が、身体への負担が少ない治療が可能です。
参考ページ:子どもの虫歯を防ぐために親ができる10のこと【年齢別・習慣別に徹底解説】
執筆者
内藤洋平
丘の上歯科醫院 院長
平成16年:愛知学院大学(歯)卒業
IDA(国際デンタルアカデミー)インプラントコース会員
OSG(大山矯正歯科)矯正コース会員
YAGレーザー研究会会員



























