
鏡を見たとき、「以前より歯が長くなった気がする」「歯の根元が露出して老けて見える」と感じたことはありませんか。
歯茎の後退は、単なる加齢現象として片付けられがちですが、実は歯の寿命を縮める深刻なサイン
でもあります。露出した歯の根元は非常に弱く、虫歯や知覚過敏のリスクに常にさらされてしまうからです。多くの方が「一度下がった歯茎はもう戻らない」と諦めていらっしゃいますが、専門的な視点から申し上げますと、適切な治療を行えば、自然で健康的な歯茎を取り戻すことは十分に可能です。
ここでは、ご自身の組織を利用して歯茎を再生させる「CTG(結合組織移植術)」を中心に、見た目の美しさと機能的な強さを両立させるための具体的なアプローチについて解説していきます。若々しい口元を取り戻すための選択肢として、ぜひお役立てください。
目次
1. 見た目と機能の両立を目指すには
歯茎が下がってしまったとき、多くの方がまず気にされるのは「見た目」の問題です。笑った時に歯が長く見えたり、歯と歯の間に黒い隙間(ブラックトライアングル)ができたりすると、どうしても口元を隠したくなってしまうものです。
しかし、私たち歯科医療従事者が歯茎の再生治療をお勧めする理由は、審美性の改善だけではありません。むしろ、歯を長期的に守るための「機能的なバリア」を再構築することにこそ、最大の目的があります。
「歯肉退縮」が引き起こす負の連鎖
歯茎が痩せて歯の根っこ(歯根)が露出した状態を専門用語で「歯肉退縮(しにくたいしゅく)」と呼びます。この状態を放置すると、お口の中では次のようなトラブルが連鎖的に発生し始めます。
- ● 知覚過敏の悪化:
本来、歯茎の中に埋まっているはずの象牙質がむき出しになるため、冷たい水や歯ブラシの刺激が神経に直接伝わり、鋭い痛みを感じるようになります。 - ● 根面う蝕(根っこの虫歯)のリスク増大:
歯の根面はエナメル質で覆われていないため、非常に柔らかく酸に弱い性質があります。そのため、一度虫歯になると進行が早く、神経まで到達しやすいのです。 - ● プラークコントロールの難化:
歯茎が下がると段差ができ、汚れが溜まりやすくなります。さらに知覚過敏で磨くのを避けてしまうと、より一層プラークが溜まるという悪循環に陥ります。
審美性と機能性は表裏一体
「見た目」を治すことは、実は「機能」を回復させることとイコールです。
例えば、厚みのある健康的な歯茎を取り戻すことができれば、ブラッシングの際にも痛みを感じにくくなり、日々の清掃性が向上します。結果として歯周病の再発を防ぐことができます。また、歯の根元をしっかりと歯肉で覆うことで、虫歯のリスクを物理的に遮断することも可能です。
私が診療を行う中で、患者様から「見た目が気になって治療を受けたけれど、しみるのも治って食事が楽しくなった」というお声をいただくことがよくあります。これはまさに、審美と機能の両立が達成された瞬間です。単なる美容整形的なアプローチではなく、お口全体の健康寿命を延ばすための積極的な治療として、歯茎の再生を捉えていただきたいと思います。
歯茎再生治療のメリットまとめ
● 露出した歯根を覆うことで「知覚過敏」を根本から改善できる
● 歯茎の厚みが増し、将来的な歯肉退縮の予防になる
● 歯の長さやラインが整い、若々しく清潔感のある口元になる
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2. 痩せた歯茎の原因を突き止めよう
治療の話に進む前に、なぜあなたの歯茎が下がってしまったのか、その原因を特定することが不可欠です。原因を取り除かないまま外科処置を行っても、数年後にまた同じように歯茎が下がってしまう可能性があるからです。
歯肉退縮の原因は一つではなく、複数の要因が絡み合っていることがほとんどですが、大きく分けると「炎症によるもの」と「機械的な刺激によるもの」、そして「解剖学的な要因」に分類されます。
主な原因とそれぞれの特徴
ご自身の生活習慣や過去の治療歴と照らし合わせながら、以下の表を確認してみてください。
「薄い歯茎」はハイリスク
ここで特に注目していただきたいのが、表の一番下にある「歯茎の薄さ」というキーワードです。専門的には「歯肉のバイオタイプ」と呼びますが、生まれつき歯茎が薄く華奢な方は、少しの刺激でも歯茎が下がりやすい傾向にあります。
逆に、厚みのあるしっかりした歯茎をお持ちの方は、多少強く磨いても簡単には下がりません。この「厚み」こそが、歯を守るための重要な鎧なのです。
後ほど詳しく解説する「CTG」という治療法は、単に下がってしまった位置を戻すだけでなく、この「歯茎の厚み」を人工的に作り出し、再発しにくい強固な環境を作ることを最大の目的としています。原因を知ることは、正しい治療法を選択するための第一歩です。

3. CTGの適応症と治療効果
下がってしまった歯茎を回復させるための代表的な治療法として、CTG(Connective Tissue Graft:結合組織移植術)という術式があります。これは世界中の歯周病専門医が採用している、エビデンス(科学的根拠)の確立された信頼性の高い治療法です。
CTGとはどのような手術か
CTGを一言で説明すると、「自分のお口の中の別の場所から歯茎の中身(結合組織)を採取し、痩せてしまった部分の歯茎の内側に移植して厚みを出す手術」です。
歯茎は、表面の皮(上皮)と、その下にある肉(結合組織)の2層構造になっています。CTGでは、主に上顎の口蓋(口の天井部分)から、内側の「結合組織」だけを採取して移植材として利用します。ご自身の組織を使うため、アレルギーや拒絶反応のリスクが極めて低く、馴染みが良いのが特徴です。
FGG(遊離歯肉移植術)との違い
よく似た手術に「FGG(Free Gingival Graft:遊離歯肉移植術)」というものがあります。どちらも歯茎を移植する手術ですが、目的と仕上がりに大きな違いがあります。これを理解しておくと、主治医の説明がよりスムーズに頭に入ってくるはずです。
どんな人に適しているのか
CTGは万能な魔法ではありませんが、以下のようなケースでは非常に高い効果を発揮します。
- ● 前歯の歯茎が下がって気になる方:
見た目の自然さが求められるエリアにおいて、CTGは第一選択となる治療法です。 - ● 知覚過敏がひどい方:
詰め物をするだけでは根本解決にならない場合、歯茎を戻すことで症状を消失させることができます。 - ● インプラント周囲の歯茎が薄い方:
インプラントの金属色が透けて見えたり、将来的な歯周病(インプラント周囲炎)を予防したりするために、あえて歯茎を厚くする処置を行うことがあります。
このように、CTGは審美的な回復だけでなく、歯やインプラントを長持ちさせるための「環境整備」として非常に優れた治療法なのです。
4. 歯茎の厚みを回復させる方法
では、実際にCTGの手術はどのように行われるのでしょうか。専門的な内容になりますが、大まかな流れをイメージしていただくことで、手術に対する恐怖心も和らぐはずです。ここでは「厚みを作る」というプロセスに焦点を当てて解説します。
結合組織(Connective Tissue)の採取
まず、ドナーとなる組織を採取します。主に上顎の奥歯の内側(口蓋)から採取します。ここは歯茎の厚みが十分にあり、採取しても比較的治癒が早い場所です。
「口の中の肉を切り取る」と聞くと痛そうに感じるかもしれませんが、CTGの場合は表面の皮(上皮)をめくって、中身の結合組織だけを取り出し、また蓋をして縫合するというテクニックを使うことが多いです。これにより、傷口が剥き出しにならず、術後の痛みを最小限に抑えることができます。
レシピエント(移植先)への移植
次に、歯茎が下がってしまった患部(レシピエントサイト)の処置を行います。
- 袋を作る:
下がってしまった歯茎と歯槽骨の間に、封筒のような袋状のスペース(エンベロープ)を形成します。 - 組織を挿入する:
先ほど採取した結合組織を、この袋の中に滑り込ませます。イメージとしては、薄いクッションの中に綿を詰めてふっくらさせるような感覚です。 - 引き上げて縫合する:
歯茎全体を本来あるべき位置(歯の首元)まで引き上げ、移植した組織と一緒にしっかりと縫合して固定します。
なぜ「厚み」が必要なのか?
単に歯茎を引っ張り上げるだけではダメなのでしょうか?実は、歯茎が薄いままだと、血流が不足してしまい、引っ張り上げてもすぐに壊死(えし)して後戻りしてしまうのです。
移植した結合組織は、新たな血管のベッドとなり、周囲の組織に栄養を供給する役割を果たします。さらに、時間が経つと周囲の組織と一体化し、分厚く、弾力のある、外部刺激に負けない強固な歯茎へと生まれ変わります。これが、「バイオタイプを変える」という本質的な治療の意味です。
クリーピング現象への期待
CTGの興味深い点として、「クリーピング(Creeping Attachment)」という現象が起きることがあります。これは、手術直後よりも、術後半年〜1年ほど経過した頃の方が、さらに歯茎が伸びて歯を覆ってくる現象です。
厚みのある健康な歯茎環境を作ってあげることで、生体の持つ治癒力が最大限に発揮され、時間をかけてじわじわと理想的な形態に近づいていくのです。人間の体の再生能力には、我々歯科医師も驚かされることが多々あります。
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5. 治療後の注意点とケア
CTGは非常に予後の良い手術ですが、その成功率を高めるためには、術後の患者様ご自身によるケアと協力が欠かせません。移植した組織が新しい場所に定着し、血流が再開するまでの期間(ダウンタイム)をどう過ごすかが、仕上がりを左右します。
最も重要な「安静」の期間
移植した組織が完全に生着するには、約2週間〜1ヶ月程度の時間が必要です。特に手術直後の数日間は、移植片がまだ不安定な状態にあります。この時期に最も避けるべきなのは、患部を動かしたり、触ったりすることです。
術後2週間のNG行動リスト
● 患部を歯ブラシで磨くこと(抜糸まではうがい薬のみで対応)
● 唇をめくって傷口を確認すること(縫合が切れる原因になります)
● 硬い食べ物や刺激物(辛いもの・熱すぎるもの)の摂取
喫煙は最大のリスク要因
ここでお伝えしなければならない厳しい現実があります。それは「喫煙」についてです。タバコに含まれるニコチンは血管を収縮させ、血流を著しく悪化させます。
歯茎の再生治療は、まさに「血流との勝負」です。せっかく移植手術を行っても、血が巡らなければ組織は壊死して脱落してしまいます。実際、喫煙者の手術成功率は非喫煙者に比べて有意に低いというデータが多数報告されています。手術を決断されたならば、術前術後の禁煙は必須条件と考えていただいた方が良いでしょう。
治癒までのタイムスケジュール
手術を受けてから、完全に日常に戻れるまでどのくらいの期間がかかるのでしょうか。一般的な経過を表にまとめました。
術後のケアは少し窮屈に感じるかもしれませんが、一生ものの歯茎を手に入れるための「数週間の辛抱」です。主治医と二人三脚で、焦らずじっくりと治していきましょう。

6. 痛みやダウンタイムの有無
外科手術を受けるにあたり、最も不安に感じるのは「痛み」と「術後の生活への影響(ダウンタイム)」ではないでしょうか。「歯茎を切って移植する」という響きだけで、激痛を想像される方も少なくありません。
しかし、近年の歯科医療技術の進歩により、手術に伴う痛みは大幅にコントロールできるようになっています。ここでは、実際に患者様がどのような経過を辿るのか、痛みと腫れのリアルな実情について包み隠さずお伝えします。
手術中の痛みについて
まず手術中の痛みですが、これに関してはほぼ無痛と考えていただいて構いません。通常の歯科治療と同様に局所麻酔をしっかりと効かせてから行います。
さらに、不安が強い方には「静脈内鎮静法(セデーション)」という選択肢もあります。これは点滴で鎮静薬を投与する方法で、うとうとと眠っているようなリラックスした状態で手術を受けることができます。「気づいたら終わっていた」という感覚に近いため、恐怖心の強い方には特におすすめです。
術後の痛みと「採取部」の保護
術後の痛みは、歯茎を移植した場所(レシピエント)よりも、組織を採取した上顎の口蓋(ドナー)の方に出やすい傾向があります。口蓋は食事の際に舌が触れたり、食べ物が当たったりしやすい場所だからです。
この痛みを最小限にするために、当院を含め多くの専門医院では以下のような対策を徹底しています。
腫れと内出血のピーク
痛みよりも患者様が気にされることが多いのが「腫れ」です。顔の表面にメスを入れるわけではありませんが、口の中の手術でも、頬や唇周辺に腫れが出ることがあります。
- 腫れのピーク: 術後2〜3日目
- 腫れが引く時期: 術後1週間〜10日程度
稀に内出血班(青あざのようなもの)が頬や首元に出ることがありますが、これも数週間で黄色くなり、自然に消滅します。マスクを着用すれば日常生活にはほとんど支障がないレベルで収まることが大半ですので、過度な心配は不要です。
仕事や学校への復帰についてですが、デスクワークであれば手術の翌日から通常通り出勤可能です。ただし、人前で話すことが多い職業や、激しい肉体労働を伴う場合は、2〜3日程度の休暇を取ることをお勧めします。無理をして血圧が上がると、傷口からの出血や腫れが悪化する原因になるからです。
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7. 傷の治りやすさと年齢の関係
「もう若くないから、手術しても綺麗に治らないんじゃないか」
カウンセリングで、50代、60代の患者様からこのような相談を受けることがあります。確かに、年齢とともに細胞の代謝スピードは落ちていきますが、歯茎の再生療法において「年齢」は決定的な障害にはなりません。
高齢でも再生は可能か
結論から申し上げますと、70代や80代の方であっても、全身状態が良好であればCTGの手術は十分に可能であり、成功例も多数あります。
口腔内の粘膜組織は、皮膚に比べてターンオーバー(新陳代謝)が非常に早いという特性を持っています。適切な血流さえ確保できれば、年齢に関わらず組織は生着し、厚みを取り戻すことができます。むしろ、年齢そのものよりも、「治癒を阻害する要因」をどれだけ持っているかの方が、予後に大きく影響します。
年齢以上に影響を与える「3つの阻害要因」
手術の成功率を下げる要因として、以下の3点は年齢以上に重要視されます。
- ● 糖尿病(特にコントロール不良の場合):
高血糖状態が続くと、末梢血管の血流が悪くなり、免疫機能も低下します。これにより、移植した組織への栄養供給が断たれ、壊死や感染のリスクが跳ね上がります。HbA1cの数値によっては手術をお断りすることもあります。 - ● 喫煙習慣:
前述の通り、ニコチンによる血管収縮は致命的です。高齢の非喫煙者と、20代のヘビースモーカーを比較した場合、前者の方が手術成功率は高いと言えるほどです。 - ● 服用薬の影響:
骨粗鬆症のお薬(ビスホスホネート製剤など)や血液サラサラのお薬を服用されている場合、休薬の可否や外科処置のリスクについて、医科の主治医と連携を取る必要があります。
治癒力を高めるための栄養戦略
傷の治りを少しでも早く、綺麗にするためには、体の内側からのサポートも有効です。手術前後の期間は、特に以下の栄養素を意識して摂取することをお勧めしています。
術後の回復を早める栄養素
● ビタミンC: コラーゲンの生成を助け、歯茎の結合組織を強化します。
(推奨食材: キウイ、パプリカ、ブロッコリーなど)
● タンパク質: 傷ついた組織を修復する材料になります。
(推奨食材: 卵、鶏ささみ、豆腐などの柔らかいもの)
● 亜鉛: 新陳代謝を促し、細胞分裂を活性化させます。
(推奨食材: 牡蠣、牛肉の赤身など)
年齢を理由に諦める必要はありません。むしろ、人生100年時代において、60代、70代はまだまだ折り返し地点です。残りの人生を自分の歯で美味しく食べるために、再生療法は非常に価値のある投資となります。ご自身の体調管理も含めて、歯科医師と相談しながらベストなタイミングを見つけていきましょう。
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8. 再治療が必要になるケースとは
CTGは非常に予知性の高い(成功率の高い)治療法ですが、医療行為である以上、100%の成功が保証されるわけではありません。残念ながら期待通りの結果が得られなかったり、数年後に再発してしまったりするケースも稀に存在します。
ここでは、どのような場合に再治療が必要になるのか、また失敗を防ぐために何ができるのかを解説します。
移植片の「壊死(えし)」と「脱落」
手術直後の最も大きなトラブルは、移植した組織が生着せずに死んでしまうことです。原因の多くは血流不足です。
- ● 縫合の不備や組織の圧迫:
縫い合わせる力が強すぎて血流が遮断されたり、逆に緩すぎて組織が動いてしまったりすると、血管がつながらず壊死を起こします。 - ● 術後の安静不足:
気になって指や舌で触りすぎると、癒着しかけていた組織が剥がれてしまいます。
万が一、移植片が脱落してしまった場合は、傷口の治癒を待ってから(通常3〜6ヶ月後)、再度手術を行うことが可能です。一度失敗したからといって二度とできないわけではありません。
数年後の「後戻り(再退縮)」
手術は成功したものの、数年経ってまた歯茎が下がってくることがあります。これは手術の失敗というよりは、「原因の除去」が不十分だったことに起因します。
再手術の判断基準
再退縮が起きた場合、必ずしもすぐに再手術が必要なわけではありません。以下の基準で判断します。
- ● 経過観察で良いケース:
退縮がわずかで、厚みが残っており(付着歯肉がある)、清掃ができている場合。 - ● 再手術を推奨するケース:
知覚過敏が再発した、見た目の不満が強い、歯ブラシを当てると痛くて磨けない(炎症がある)場合。
再治療を避ける最大の秘訣は、手術そのものの技術もさることながら、その後の「生活習慣の改善」にかかっています。手術はあくまでリセットボタンであり、その後の維持は患者様の毎日の行動にかかっているのです。

9. 審美面に配慮したアプローチ
前歯の治療においては、「ただ歯根が隠れればいい」というわけではありません。左右対称で、自然なカーブを描く美しい歯茎のライン(スキャロップ)を取り戻すことこそが、患者様の真のゴールであることが多いからです。
ここでは、機能回復の一歩先を行く、審美的な完成度を高めるためのアプローチについて解説します。
「スキャロップ」のデザイン
健康で美しい歯茎は、貝殻のような波形(スキャロップ)を描いています。手術の際は、単に組織を詰め込むだけでなく、この自然な曲線をいかに再現するかが歯科医師の腕の見せ所です。
これには高度な技術が必要です。例えば、歯と歯の間にある三角形の歯茎(歯間乳頭)を潰さないように繊細に切開したり、縫合糸の太さや色にもこだわったりします。髪の毛よりも細い糸を使い、顕微鏡(マイクロスコープ)下で精密に縫合することで、傷跡を肉眼ではほとんど分からないレベルにまで消すことが可能になります。
ブラックトライアングルの改善限界
歯茎の再生治療において、一つだけ限界があることを正直にお伝えしなければなりません。それは「ブラックトライアングル(歯と歯の間の黒い隙間)」の完全な閉鎖は非常に難しい
という点です。
歯の表面(外側)の歯茎は再生しやすいのですが、歯と歯の間にある歯茎(歯間乳頭)は、一度失われると再生させるための血流確保が極めて難しいためです。CTGを行っても、この隙間だけは埋まりきらないことがあります。
複合的な治療で美しさを追求する
そのような場合、外科処置だけでなく、補綴(ほてつ:被せ物や詰め物)治療を組み合わせることで、審美的な問題を解決します。
- ● ダイレクトボンディング:
歯の隙間の側面に樹脂を盛り足して形を変えることで、黒い隙間を目立たなくします。 - ● ラミネートベニア・セラミッククラウン:
歯の形そのものを変えて、下がってしまった歯茎のラインに合わせて隙間を埋める方法です。
美しい口元の3つの条件
● 歯茎のピンク色が健康的で引き締まっている(スティップリングがある)
● 歯茎のラインが左右対称で、笑ったときのバランスが良い
● 歯の根元が露出しておらず、適切な長さに見える
「歯茎の手術」と聞くと外科的なイメージが先行しますが、実際には「口元の総合プロデュース」の一環です。ご自身がどこまでの美しさを求めているのか、カウンセリングの際に詳しくお話しいただくことで、最適なプランを提案することができます。
10. 成功例から学ぶ対処法
これまで多くの患者様の治療に携わってきましたが、結果が良好で、長期間その状態を維持できている方には、明確な共通点があります。最後に、成功者たちが実践している「考え方」と「行動」をご紹介します。
1. 「治してもらう」ではなく「治す」という意識
最も重要なのはマインドセットです。成功する患者様は、手術をあくまで「きっかけ」と捉えています。「先生に治してもらったから終わり」ではなく、「せっかく手に入れた新しい歯茎を、今度こそ自分で守り抜く」という強い意志を持っていらっしゃいます。
この意識がある方は、ブラッシング指導(TBI)を真剣に受け止め、自己流の磨き方を徹底的に修正します。歯茎が下がった原因が自分にあることを認め、それを変えようとする姿勢が、予後を決定づけるのです。
2. 適切な道具への投資を惜しまない
道具選びも重要です。成功者の多くは、歯科医院で推奨されたケア用品を素直に取り入れています。
- ● スーパーソフト(極細毛)の歯ブラシ:
手術部位専用の、羽のように柔らかい歯ブラシを使用しています。 - ● 研磨剤無配合の歯磨き粉:
歯や歯茎を削りすぎないよう、ジェルタイプなどの優しいものを選んでいます。
3. 定期検診を「ペースメーカー」にする
どれほど意識が高くても、数ヶ月経てば人間はどうしても自己流に戻り、ブラッシング圧が強くなってしまうものです。成功している患者様は、3ヶ月ごとの定期検診を「答え合わせの時間」として活用しています。
衛生士に「ここが少し強く当たっていますね」「ここは磨けていませんね」と修正してもらうことで、大きなトラブルになる前に軌道修正を行っているのです。
成功者が実践する黄金ルーティン
● 鏡を見ながら磨く(感覚だけで磨かず、毛先の当たり方を目視する)
● 夜はマウスピースを装着して寝る(無意識の破壊力から歯を守る)
● 違和感がなくても予約通りに歯科医院へ行く
歯茎の再生は、失われた時間を取り戻す素晴らしい治療です。しかし、それは魔法ではありません。外科医の技術と、患者様の「守る努力」が合わさって初めて、一生ものの結果が得られるのです。
未来の笑顔を守るために、今できる選択を
ここまで、下がってしまった歯茎を再生させる治療法「CTG」について、原因から術後のケアまで詳しく解説してきました。長文にお付き合いいただき、ありがとうございました。
この記事で最もお伝えしたかったことは、「歯茎の下がりは、適切な治療によって改善可能であり、諦める必要はない」
という事実です。見た目のコンプレックスを解消するだけでなく、露出した歯根を保護し、歯の寿命を延ばすために、再生療法は非常に理にかなった選択肢です。ご自身の組織を利用するため安全性も高く、実績のある治療法が確立されています。
読者の皆様に、明日から実践していただきたいアクションは以下の2つです。
- 手鏡を持って、ご自身の歯茎の「厚み」と「色」を観察してみてください。
歯茎が薄く透けていないか、赤く腫れていないか。現状を知ることが治療の第一歩です。 - 「歯茎の再生療法を行っている歯科医院」のカウンセリングを予約してみること。
ウェブサイトで症例写真を公開している医院を探し、まずは話を聞くだけでも大きな前進になります。
失われた歯茎を取り戻すことは、単に若々しさを取り戻すだけでなく、美味しい食事や楽しい会話といった「当たり前の日常」を将来にわたって守ることにつながります。ぜひ、勇気を出して専門家に相談してみてください。
歯茎の再生療法(CTG)に関するよくある質問
A. 原則として自費診療となり、1箇所あたり5万〜15万円程度が相場です。
医院や手術の範囲、難易度によって異なりますが、保険適用外の治療となることがほとんどです。事前に見積もりを取り、医療費控除の対象になるかどうかも確認することをおすすめします。
A. お口の状態によりますが、通常は3〜4本分程度まで可能です。
採取できる組織の量には限りがあるため、広範囲にわたる場合は数回に分けて手術を行うことがあります。無理に一度で行うよりも、分割した方が予後が良い場合もあります。
A. 患部の歯磨きは抜糸後(約2週間後)から医師の指示に従って再開します。
それまでは専用のうがい薬で消毒を行います。他の健康な歯については、手術翌日から通常通り磨いていただいて構いません。
A. 適切なケアを続ければ、10年以上の長期安定が可能です。
ただし、ブラッシング圧が強すぎたり、歯周病が再発したりすると再び下がってしまうリスクがあります。手術後の定期的なメンテナンスが維持の鍵となります。
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執筆者
内藤洋平
丘の上歯科醫院 院長
平成16年:愛知学院大学(歯)卒業
IDA(国際デンタルアカデミー)インプラントコース会員
OSG(大山矯正歯科)矯正コース会員
YAGレーザー研究会会員



























