
「歯医者さんに行かなきゃいけないのは分かっているけれど、特に痛いところもないし、つい後回しにしてしまう」
そんなふうに感じている方は、決して少なくありません。実際、歯科医院は「痛くなってから行く場所」というイメージがまだ根強いのが現状です。しかし、痛みが出てから受診する場合、多くはすでに病状が進行しており、治療には長い期間と多くの費用がかかってしまいます。
これから詳しく解説する「定期検診」は、言わばお口の健康診断であり、プロによるメンテナンスの時間です。何をするのか分からないから不安、あるいは怒られそうで怖い、といったネガティブなイメージを払拭できるよう、実際の検診内容や費用、痛みの有無について、歯科医療の現場目線で分かりやすくお伝えしていきます。美容院で髪を整えるように、気軽な気持ちで歯科医院を活用するためのガイドとしてお役立てください。
目次
1. 受付から会計までの所要時間
忙しい毎日を送る中で、歯科検診にどれくらいの時間を割けばいいのかは気になるところです。「1時間くらいで終わるかな?」と思って行ったら、待ち時間が長くて後の予定に響いてしまった、という経験がある方もいらっしゃるかもしれません。
一般的に、定期検診にかかる時間は約45分から60分程度が目安ですが、これは「久しぶりに行く場合(初診・再初診)」か、「定期的に通っている場合(再診)」かによって大きく異なります。
初めて、または久しぶりの受診の場合
初めて訪れる歯科医院や、前回の受診から半年以上空いてしまった場合は、通常よりも時間がかかると考えておきましょう。目安としては60分〜90分程度を見ておくと安心です。
なぜ時間がかかるのかというと、現状を正確に把握するための「資料取り」が必要になるからです。
- ● 問診票の記入: 現在の健康状態や服用薬、アレルギーの有無などを詳細に記入します。
- ● カウンセリング: 気になる症状や、治療に対する希望(痛いのが苦手、短期間で終わらせたい等)をヒアリングします。
- ● 全体的な検査: レントゲン撮影や口腔内写真の撮影、歯周病検査など、お口全体の状態をゼロからチェックします。
定期的に通っている場合(メンテナンス)
3ヶ月〜半年に一度のペースで通っている場合は、データがすでに揃っているため、比較的時間は短くなります。スムーズにいけば30分〜45分程度で完了します。
主な内容は、前回の状態からの変化の確認と、クリーニング(歯石取り・着色除去)が中心です。歯科衛生士が担当することが多く、待ち時間も比較的少ないのが特徴です。「美容院に行くついで」や「お買い物の前」など、隙間時間に予定を組み込みやすいのがこのパターンです。
当日の流れをシミュレーション
実際の検診がどのように進むのか、標準的な流れをご紹介します。これを知っておくだけで、リラックスして受診できるはずです。
当日のタイムスケジュール例
- 受付・問診(5〜10分):
保険証や診察券を提出し、問診票に記入します。予約制でも多少の待ち時間が発生することがあります。 - 検査・診断(10〜15分):
診療室に入り、歯科医師や衛生士がお口の中をチェックします。必要に応じてレントゲンを撮ります。 - クリーニング・指導(20〜30分):
歯石取りや機械を使った清掃(PMTC)、歯磨き指導を行います。ここがメインの時間です。 - 説明・会計(5〜10分):
今日の結果と今後の注意点を聞き、受付で会計と次回の予約を済ませて終了です。
もし、「この後予定があるから〇〇時までに出たい」という事情がある場合は、受付の段階や診療が始まる前にスタッフへ伝えておくことをお勧めします。可能な範囲で処置内容を調整し、時間を守ってくれるはずです。
関連記事:予防歯科と定期検診で守る口腔の健康|虫歯・歯周病を未然に防ぐために知っておきたいこと
2. 定期検診の主な検査項目一覧
「口を開けて見ているだけで、何を確認しているんだろう?」と不思議に思ったことはありませんか。歯科医師や歯科衛生士は、短時間の間に非常に多くのポイントをチェックしています。虫歯があるかどうかだけでなく、歯茎の状態、粘膜の異常、噛み合わせのバランスなど、その項目は多岐にわたります。
プロが見ている5つのポイント
定期検診で行われる主な検査項目を以下の表にまとめました。これら全てを総合的に判断して、あなたのお口の健康状態を評価しています。
「削らない」という選択肢を持つために
これらの検査を行う最大の目的は、「早期発見・早期治療」はもちろんですが、それ以上に「予防管理」にあります。
例えば、ごく初期の虫歯が見つかった場合、すぐに削るのではなく、フッ素塗布や清掃指導を行い、進行が止まっているかを経過観察することがあります。定期的に検査を受けていれば、このように「削らずに済むチャンス」が増えます。逆に、数年ぶりに受診した場合は、ある程度進行してしまっていることが多く、どうしても削る量が増えてしまうのです。

3. 歯周ポケットの深さで分かること
歯科検診で、「チクチクしますよ」と言われながら、歯と歯茎の間に細い器具を入れられた経験はありませんか?そして、「ここは3ミリ、ここは5ミリで出血ありですね」といった謎の数字を聞いたことがあるかもしれません。
これは「歯周ポケット検査(プロービング)」と呼ばれるもので、大人の歯科検診においては虫歯チェック以上に重要な意味を持つ検査です。
プローブが語るお口の歴史
使用するのは「プローブ」という目盛りのついた細い棒状の器具です。これを歯と歯茎の隙間(歯周ポケット)に挿入し、その深さをミリ単位で測定します。決して歯茎を刺しているわけではなく、隙間の底を探っているのです。
この深さは、そのまま「歯周病の進行度」を表しています。深ければ深いほど、歯を支える骨が溶けてなくなっていることを意味し、細菌の住処が広くなっている状態です。
数値の目安と対策
測定された数値が具体的にどのような状態を示しているのか、目安を知っておくと、ご自身の診断結果をより深く理解できます。
「出血」はSOSのサイン
深さと同じくらい重要なのが、検査時の「出血」の有無です。健康な歯茎は引き締まっており、プローブを入れても出血しません。血が出るということは、そこに炎症がある(=現在進行形で病気が進んでいる)という証拠です。
「血が出るから怖くて磨けない」とおっしゃる患者様がいらっしゃいますが、実は逆です。血が出る場所こそ、汚れが溜まって炎症が起きている場所なので、優しく、かつしっかりと磨いて汚れを落とさなければ治りません。定期検診で出血箇所を指摘されたら、そこを重点的にケアするよう意識を変えてみてください。
4. レントゲン撮影は毎回必要なのか
「この前撮ったばかりなのに、またレントゲンですか?」
そう感じたことがある方も多いのではないでしょうか。被曝への不安もありますし、費用もかかるため、できれば避けたいと思うのが人情です。しかし、歯科医師がレントゲン撮影を提案するには、それなりの理由があります。
目に見えない「氷山の一角」を見る
私たちが肉眼で見ることができるのは、歯の頭の部分(歯冠)だけです。これは歯全体の体積のわずか3割程度に過ぎません。残りの7割、つまり歯の根っこ(歯根)や、歯を支えている骨(歯槽骨)、歯と歯の間のコンタクト部分は、外からは全く見えません。
レントゲン撮影が必要な最大の理由は、この「見えない部分の異常」を発見するためです。
- ● 隣接面カリエス: 歯と歯の間にできる虫歯は、上から見ても分かりませんが、レントゲンだと黒い影としてくっきり写ります。
- ● 根尖病巣: 神経が死んで根の先に膿が溜まっている場合、痛みが出る前に発見できます。
- ● 歯槽骨の吸収: 歯周病で骨がどのくらい溶けているかは、レントゲンでしか正確に把握できません。
撮影頻度の目安は「1年に1回」
では、どのくらいの頻度で撮るのが適切なのでしょうか。お口の状態にもよりますが、一般的には「1年に1回」お口全体のレントゲン(パノラマ撮影)を行うことが推奨されています。
虫歯になりやすい方や、歯周病の進行が早い方の場合は、半年ごと、あるいは気になる部分だけの小さなレントゲン(デンタル撮影)を適宜行うこともあります。逆に、全く問題がなく状態が安定している方であれば、2年に1回程度に間隔を空けることもあります。
被曝量についての安全性
「放射線」と聞くと怖いイメージがありますが、歯科のレントゲン撮影による被曝量は極めて微量です。
現在主流のデジタルレントゲンであれば、お口全体の撮影(パノラマ)1回での被曝量は約0.03ミリシーベルトと言われています。これは、私たちが日常生活を送る中で自然界から受ける放射線量(年間約2.1ミリシーベルト)と比較しても、無視できるほど小さい値です。東京からニューヨークへ飛行機で往復する際に浴びる宇宙線による被曝量よりも少ないのです。
もちろん、妊娠中の方などは配慮が必要ですので、必ず事前にスタッフへお伝えください。防護エプロンを着用することで、お腹の赤ちゃんへの影響をほぼゼロに抑えることができます。
関連記事:予防歯科の基本と重要性|虫歯・歯周病予防から健康寿命を延ばす習慣まで解説
5. 歯石除去(スケーリング)は痛い?
定期検診のメインイベントとも言える「歯石取り(スケーリング)」。あの「キイーン」という音や、ガリガリされる感覚が苦手だという方は多いものです。「痛いから行きたくない」という本音もよく耳にします。
なぜ歯石取りは痛いのでしょうか。そして、痛みを減らす方法はあるのでしょうか。
痛みの正体は「炎症」と「知覚過敏」
基本的に、健康な歯茎の状態であれば、歯石取りで強い痛みを感じることはありません。痛みを感じる場合、主に2つの原因が考えられます。
- ● 歯茎の腫れ(炎症): 歯周病で歯茎が腫れていると、少し触れただけでも敏感に反応し、痛みや出血を伴います。これは傷口を触っているようなものです。
- ● 知覚過敏: 歯茎が下がって歯の根が露出している場合、冷たい水や金属の器具が触れる刺激で「キーン」としみることがあります。
超音波と手用スケーラーの違い
歯石を取る器具には大きく分けて2種類あり、状況によって使い分けられます。
「痛い」は我慢せずに伝えてOK
もし痛みを感じたら、遠慮せずに左手を挙げるなどして合図をしてください。歯科衛生士は痛みを和らげるためのいくつかの引き出しを持っています。
- ● お湯を使う: 超音波スケーラーの水をぬるま湯に切り替える(設備がある場合)。
- ● 麻酔を使う: どうしても痛い場合は、表面麻酔(塗り薬)や局所麻酔を使用して、無痛状態で処置を行うことも可能です。
- ● 回数を分ける: 一度に全部やろうとせず、ブロックごとに分けて少しずつ進めることで負担を減らします。
「痛いのが嫌だから行かない」のではなく、「痛くないようにやってもらう」というスタンスで相談することが、継続して通うためのコツです。

6. PMTC(プロの機械的歯面清掃)とは
定期検診のハイライトとも言えるのが、歯科衛生士による専門的なクリーニングです。メニュー表などで「PMTC」という文字を見かけたことはありませんか?これは「Professional Mechanical Tooth Cleaning」の略で、日本語に訳すと「専門家による機械的な歯面清掃」となります。
普段の歯磨きとなにが違うのか、単に汚れを取るだけなのか。その本質は、目に見えない細菌の膜である「バイオフィルム」を徹底的に破壊することにあります。
バイオフィルムという「細菌の鎧」を剥がす
お風呂場の排水溝やキッチンの三角コーナーに、ヌルヌルとした汚れがついているのを見たことがあると思います。実は、歯の表面につく汚れもこれと同じ性質を持っています。細菌同士が手を組み、多糖体というバリアを出して作った集合体、それが「バイオフィルム」です。
このバイオフィルムは非常に厄介な性質を持っています。
- ● 薬が効かない: 強固なバリアに守られているため、洗口液(うがい薬)や抗菌薬が内部まで浸透しません。
- ● 歯ブラシでは落ちにくい: 粘着力が強く、自己流のブラッシングでは完全に取り除くことが困難です。
PMTCは、専用の機器と薬剤を使って、このバイオフィルムを物理的に破壊し、剥がし取る処置です。イメージとしては、車の頑固な水垢をポリッシャーで磨き落とす作業に近いかもしれません。これにより、お口の中の細菌レベルを劇的に下げることができます。
PMTCの具体的な手順
実際に行われるPMTCの手順は、以下の4ステップが一般的です。痛みはほとんどなく、むしろ「気持ちよくて眠ってしまう」という患者様も多いリラックスできる処置です。
- 染め出し(プラークの可視化):
磨き残しがどこにあるかを確認するため、専用の液で古い汚れを染め出します。これにより、普段の歯磨きの弱点が浮き彫りになります。 - 研磨剤(ペースト)の塗布:
患者様の歯の質や着色の度合いに合わせて、粗さの異なる研磨剤を選びます。フッ素入りのものや、知覚過敏抑制効果のあるものなど種類は様々です。 - 機械的清掃:
柔らかいゴムのカップや、回転するブラシを使い、歯の表面、裏側、歯と歯の間を丁寧に磨き上げます。器具の先端は柔らかい素材なので、歯を削る心配はありません。 - 洗浄・フッ素塗布:
お口の中を洗い流した後、仕上げに高濃度のフッ素を塗布して歯質を強化します。
「クリーニング」と「ホワイトニング」の決定的な違い
よくある誤解として、「PMTCを受ければ芸能人のように歯が真っ白になる」と思われている場合があります。しかし、PMTCとホワイトニングは目的も効果も全く異なるものです。
PMTCが終わった後の歯は、舌で触ると驚くほどツルツルしています。このツルツルの状態こそが、新たな汚れを寄せ付けない最強の防御壁となります。美容院でトリートメントをした後の髪のような、あの感覚をお口の中でも味わってみてください。
参考:初めての歯科クリーニング体験!痛みはある?気になる流れを解説
7. 気になる定期検診の費用と保険適用
「定期検診に行きたいけれど、いくらかかるか不安」というお金の悩みは、受診のハードルを上げる大きな要因です。実際のところ、歯科の検診費用は「保険が適用されるかどうか」で大きく変わります。
日本の医療制度の仕組みと、窓口で支払う金額の目安について、クリアにしておきましょう。
「治療」か「予防」かという線引き
日本の健康保険制度は、原則として「病気の治療」に対して適用されます。つまり、厳密に言うと「単なる予防目的の検診」や「美容目的のクリーニング」には保険が使えません。
しかし、実際には多くの定期検診で保険が適用されています。これはなぜでしょうか?
それは、検診の結果として「歯肉炎」や「歯周病」といった診断名がつくことがほとんどだからです。成人の約8割が何らかの歯周病予備軍と言われる現代において、完全な健康体であるケースは稀です。そのため、「歯周病の重症化予防治療」という名目で、継続的な管理(メンテナンス)に保険が適用されるルールになっています。
費用の目安(3割負担の場合)
一般的な歯科医院で、保険適用で定期検診を受けた場合の自己負担額は以下の通りです。
- 総額の目安: 3,000円 〜 4,000円程度
この金額には、初診料(または再診料)、検査料(レントゲン含む)、指導料、処置料(クリーニング)などが含まれます。レントゲンを撮らない回であれば、2,000円〜3,000円程度で済むこともあります。
「自費のクリーニング」を選ぶメリット
一方で、あえて保険を使わない「自費診療のクリーニング(PMTCコースなど)」を用意している医院も増えています。費用は5,000円〜15,000円程度と高くなりますが、保険診療の枠組みに縛られないため、以下のようなメリットがあります。
「とりあえず虫歯がないか診てほしい」という方は保険診療で十分ですが、「タバコのヤニをきれいに落としたい」「時間をかけて丁寧にマッサージしてほしい」という方は、自費のコースを選ぶのが賢い選択と言えるでしょう。
参考ページ:根管治療の費用はいくら?保険適用と自費診療の違いを徹底解説
8. フッ素塗布の虫歯予防効果
検診の最後に「フッ素を塗っておきますね」と言われることがありますが、フッ素は子供のためだけのものだと思っていませんか?実は、成人にこそフッ素塗布が必要な理由があります。
フッ素が持つ3つのパワー
フッ素(フッ化物)が歯に作用すると、以下の3つの効果を発揮します。
- 再石灰化の促進:
初期の虫歯(溶け始めた表面)に、唾液中のカルシウムやリンを取り込ませて修復します。 - 歯質強化(耐酸性向上):
歯の表面の構造(ハイドロキシアパタイト)を、酸に溶けにくい構造(フルオロアパタイト)に作り変え、防御力を上げます。 - 細菌の活動抑制:
虫歯菌の酵素の働きを邪魔して、酸を作らせないようにします。
大人の弱点「根面カリエス」を防ぐ
年齢を重ねると、歯周病や加齢によって歯茎が下がり、歯の根っこ(歯根)が露出してきます。この根っこの部分は、エナメル質で守られている頭の部分とは違い、非常に柔らかく酸に弱い象牙質がむき出しになっています。
そのため、大人は根元から虫歯になる「根面カリエス」のリスクが非常に高いのです。フッ素は、この弱い根面を化学的に強化してくれる頼もしい味方です。また、昔治療した詰め物の隙間から再発する「二次カリエス(二次虫歯)」の予防にも高い効果を発揮します。
歯科医院ならではの高濃度
市販の歯磨き粉に含まれるフッ素濃度は、法律で最大1,500ppm(一般的には1,450ppm)までと決められています。これに対して、歯科医院で塗布するフッ素ジェルは9,000ppmという非常に高い濃度です。
この高濃度フッ素を、PMTCで汚れを完全に落とした直後の「裸の歯」に塗ることで、効率よく歯に取り込ませることができます。塗布後30分間は飲食やうがいを控えることで、フッ素の効果を最大限に引き出すことができます。帰りの受付で「今から30分は我慢してくださいね」と言われるのはこのためです。

9. 歯科衛生士が教える歯磨き指導
「毎日磨いているのに、どうして汚れが残っていると言われるの?」
そんな疑問を抱く方も多いでしょう。実は、「磨いている」と「磨けている」は全くの別物です。定期検診の重要なメニューの一つである「歯磨き指導(TBI)」では、あなたの自己流の癖を見抜き、プロの視点で修正を行います。
自分の「磨き癖」を知る
右手で磨くか左手で磨くか、どの歯から磨き始めるか、力の入れ具合はどうか。長年の習慣で染み付いた「癖」は、自分では絶対に気づけません。その結果、いつも同じ場所(例えば右下の奥歯の内側など)に磨き残しができ、そこから病気が始まります。
検診では、赤色の染め出し液を使ってプラーク(細菌)を可視化することがあります。鏡を見て「こんなに残っているの!?」とショックを受けるかもしれませんが、それが上達への第一歩です。敵の居場所を知らずして、戦いに勝つことはできません。
フロスを使わないのは「顔を洗って首を洗わない」のと同じ
歯ブラシだけで落とせる汚れは、全体の約60%程度だと言われています。残りの40%は、歯と歯の間や、歯周ポケットの中に潜んでいます。この40%を落とすために必須なのが、デンタルフロス(糸ようじ)や歯間ブラシです。
歯科衛生士は、あなたの歯の隙間の広さに合わせて、最適なサイズや種類の補助用具を選んでくれます。
- ● 隙間が狭い若い方: 糸だけのフロス(ワックス付きが滑りやすい)
- ● 歯茎が下がって隙間が広い方: サイズの合った歯間ブラシ
- ● ブリッジが入っている方: スーパーフロス(特殊な形状の糸)
「面倒くさい」と感じるかもしれませんが、1日1回、夜寝る前だけでも構いません。これを取り入れるだけで、虫歯と歯周病のリスクは激減します。指導の時間に実際に手を動かして練習させてもらえるので、ぜひコツをマスターして帰ってください。
10. 次回の定期検診予約の重要性
検診が終わってスッキリした後、受付で「次は3ヶ月後ですね、予約をお取りしますか?」と聞かれます。「予定が分からないから、また電話します」と答えて、そのまま忘れてしまった経験はありませんか?
実は、この「帰りに次回の予約を取ること」こそが、お口の健康を守るための最強のライフハックです。
細菌は「3ヶ月」で復活する
なぜ多くの歯科医院が「3ヶ月ごと」を推奨するのでしょうか。これには細菌学的な根拠があります。
PMTCで徹底的に破壊されたバイオフィルム(細菌の膜)は、時間が経つと再び形成され始めます。そして、病原性の高い悪玉菌のコロニーが元のレベルまで復活し、歯周病のリスクが高まるまでの期間が、およそ12週間(約3ヶ月)だと言われているのです。
つまり、3ヶ月ごとにプロのクリーニングを受けてリセットすれば、細菌が悪さをする前に先手を打つことができます。逆に、半年、1年と空いてしまうと、その間はずっと細菌が優勢な状態で過ごすことになり、ダメージが蓄積してしまいます。
「予約」が強制力を生む
人の意思は弱いものです。「痛くないのに病院に行く」という行動は、緊急性が低いため、どうしても優先順位が下がります。
しかし、先に予約を入れて手帳に書いてしまえば、それは「確定した予定」になります。美容院や車の車検と同じように、「行かなきゃいけないもの」としてスケジュールに組み込んでしまうのが、継続の秘訣です。
もし予定が入ってしまっても、電話で変更すれば良いだけのことです。「また電話します」と言って電話をした人は、ほとんどいません。未来の自分のために、その場で予約枠を押さえてしまいましょう。
歯科検診は「痛い治療を回避する」ための最良の投資
ここまで、歯科の定期検診の具体的な内容や費用、その意義について解説してきました。 「歯医者は怖いところ」というイメージが、少しは「自分をメンテナンスする場所」へと変わりましたでしょうか。
この記事で最もお伝えしたかったことは、「定期検診に通っている人ほど、生涯にかかる医療費が安く、自分の歯を多く残している」という事実です。数千円の検診代を惜しんで、将来インプラントや入れ歯に数十万、数百万を払うのは、経済的にも身体的にも割に合いません。 プロによるクリーニングは、お口の中がスッキリして本当に気持ちが良いものです。エステやマッサージに行くような感覚で、ぜひ気軽に足を運んでみてください。
読者の皆様に、明日から実践していただきたい具体的なアクションは以下の2つです。
- かかりつけの歯科医院に電話をし、「検診とクリーニングをお願いしたい」と予約を入れる。
「久しぶりで行きづらい」と思う必要はありません。歯科医院側は、検診に来てくれる患者様を大歓迎しています。 - 今夜の歯磨きから、デンタルフロス(糸ようじ)を1回だけ通してみる。
まずは1日1回、前歯だけでも構いません。そのひと手間が、未来のあなたの歯を守ります。
「80歳で20本の歯を残す」。この目標を達成できるかどうかは、今日からのあなたの行動にかかっています。痛くなる前に会いに行く、新しい歯科医院との付き合い方を始めてみませんか。
定期検診に関するよくある質問
A. 一般的には3ヶ月に1回が目安です。
ただし、歯周病のリスクが高い方は毎月、状態が非常に安定している方は半年に1回など、お口の状態によって最適な間隔は異なります。担当の歯科医師や衛生士に相談して決めましょう。
A. もちろんです。むしろそれが理想的な受診理由です。
保険適用でクリーニングを行う場合は、ルール上、最初に検査(虫歯や歯周病のチェック)が必要になりますが、治療が必要なければクリーニングのみで終了します。
A. はい、PMTCできれいに落とすことができます。
ただし、着色汚れ(ステイン)の除去のみを目的とする場合は、保険適用外(自費)となることがあります。検診の一環として行う範囲であれば保険で対応可能な場合も多いです。
A. いいえ、プロによるケアは必須です。
どんなに歯磨きが上手な方でも、歯周ポケットの奥深くやバイオフィルムまでは除去できません。セルフケアとプロフェッショナルケアは、車の「洗車」と「車検」のような関係で、両方が必要です。
参考:定期検診の結果説明、理解してる?歯科医師に聞くべき5つの質問
執筆者
内藤洋平
丘の上歯科醫院 院長
平成16年:愛知学院大学(歯)卒業
IDA(国際デンタルアカデミー)インプラントコース会員
OSG(大山矯正歯科)矯正コース会員
YAGレーザー研究会会員



























